自治体反合闘争の敗北と「公契約条例」制定運動
仙台市職労中央執行委員
石渡 正人
2012年7月19日から21日にかけて、北海道・旭川市で2013年度自治労現業評議会総会と第4回現業組織集会が開催された。
現業評議会総会では、自治労中央の「公共サービス」推進方針を受け、「住民ニーズを自治体政策に反映していく上で中心的な役割を果たしていくべき『回復』と、『質の高い公共サービス』を提供するための現場・自治体改革」が自治労現業労働者の任務であるとしたうえで、現業労働者を「新たな技能職」として位置づける運動を推進していくことで悲願の地公法57条の「単純労務」規定撤廃を実現していくとした。そして、現業組織集会では、「新たな技能職」確立に向けて意見交流が行なわれた。
自治労の「公共サービス論」と日共の「全体の奉仕者論」
いまは自治労を飛び出しているが、日共の自治体運動論について触れる。なぜならば、日共の「全体の奉仕者論」が自治労運動を破壊してきたことを捉え返さずに、これと同様の理論による幻想的「市民主義」が自治労中央に色濃く表れているからである。
日共は反米・愛国の国民主義であり、その労働運動論は「伝達ベルト論」である。その意味において、階級闘争を否定するものであり、日共は労働組合を通して日共の宣伝ができればそれでいいというわけだ。米国に従属している日本資本主義での労働者の闘いは、「小経営資本を守ることと大資本の民主的規制」に限定することだという。日本はいまだ帝国主義ではなく、かつ米国に従属しているという情勢分析の誤りから帰結する反米・愛国の国民主義!
したがって、職場闘争を積み上げて組織される反合闘争(合理化について労使が話し合う「労使協議会」ではなく!)は、小ブル急進主義とみなし、労働者の闘いそのものに敵対する。スターリニストによる階級闘争の破壊!
反合実力闘争を唾棄する「全体の奉仕者論」(日共の自治体職員ありかた論)が自治体労働運動を破壊してきた。これに対して、自治体の社民は現業労働者の「直営堅持」方針を反日共を煽るだけのために対置して対抗してきた。労働戦線統一をめぐる自治体産別の組織攻防戦の結果、日共が自治労脱退・自治労連結成に踏み込む中、自治労中央は「全体の奉仕者論」に屈服して、反労働者的「公共サービス」論を掲げ、第二保守党・民主党支持で突っ走っている。果たして「行政改革」・現業切捨てに対して無力と化し、「直営堅持」方針が後景化させられている。
「戦後政治の総決算」の名の下に推し進められた政党再編と構造改革、すなわち総評・社会党解体―「連合」・民主党結成と同時に進行した「行政改革」・「規制緩和」の嵐、総評解体・国鉄分割・民営化を頂点とした総資本による全体重をかけた攻撃、その一環として、地方公共団体の「行革」が強行され、業務の民営化ないしは外注化と職員の臨時・非常勤等への置き換えが進んだ。職務・職階制が強化され、否応なしのトップダウンが行なわれ、自治体労働者を住民支配の尖兵に純化させようとする統治機構の再編が着々と進められている。自治体における臨時・非常勤職員等の比率は今や33・1%(「臨時・非常勤職員等職員の賃金・労働条件制度調査」2012年6月、自治労調査)にのぼっており、これは拡大する一方である。
「単純労務」規定と「新たな技能職」
合理化の結果に手をこまねいていた自治労が、二つの方針を打ち出した。一つは、現業切捨て攻撃の回避とでも言うべきもの。「単純労務」は民営化・外注化でという攻撃であるから、現業労働者が「現業職」でなくなれば解決できるのでは、と! 地公法57条の「単純労務」規定の撤廃、その実現に向けた「現業アクションプラン」運動。二つには、他力本願ともいうべき「公契約条例」制定運動。
一つめをめぐっては、 職場廃止の合理化では、同一職種職場への配転ないしは現業から事務職等への「転職」による配転攻撃を伴っていたことを忘れてはならないということだ。
この「転職」問題を抜きにしては反合職場討議が成り立たなかったではないか。現業差別から抜け出す「良いきっかけ」という合理化推進派のあおり、「合理化を呑めば(事務職等へ)転職できる」という分断攻撃、これらといかに論争してかちきるか、そのことなしに合理化攻撃を粉砕することはできなかったではないか。
また、今日での「分限処分条例の厳格適用」による事業廃止に伴う馘首―分限免職攻撃は、職種に関わらず、すなわち、現業職に限らず事務・技術・専門職(医療・福祉・教育)であれ、押し並べて対象とされるのである。
自治労が加盟している国際公務労連(PSI)発行のリーフレット「質の高い公共サービス」で報告されているように、「組合員が自分たちの仕事の研究者になる。どのようにして質を向上させるか、どこに責任があるか、あるべきか、どのような訓練が必要であるかを議論する」(スウェーデンの例)ことは、われわれは職場自治研の中で実践している。地公法上では、間違いであったり、誤ったものであろうとも上司の命令には従わなければならないということであり、職務・職階制を打破しない限り、当局の施政方針を貫くための縦横の支配関係の中では、「正しい意見」「正しい仕事の進め方」はつぶされていく。これが良識的な自治体労働者が嫌というほど味わっている現状だ。それは、唯一、職場闘争で強固に打ち固められた団結で、当局に施政方針の変更や改革を迫りきってこそ、実現できる。それ以外においては、かえって、職階があがることに伴う上位権限をもとめて、絶望的な昇格をめぐる競争と分断に呑み込まれてしまうということだ。
二つめの「公契約条例」をめぐっては、概括的な現状を見ながら検討してみる。
「公契約」における「労働条項に関する条約」
まず、「公契約条例」の前には、「公契約における労働条項に関する条約」という第二次大戦直後に採択された国際労働機関(ILO)94号条約、また国内法では、最近の「公共サービス基本法」があるということに留意しておこう。
ILOは、1949年に94号条約として「公契約における労働条項に関する条約」、同名の勧告(第84号)を採択した。2008段階で批准国60ヵ国(日本は未批准)、しかし完全な実施が確保されているのは批准国の4分の1程度に過ぎない(ILO駐日事務所の解説)。
その概要は「公契約」において、受注者や下請業者の労働者の賃金と労働時間において「当該労働が行なわれる地方において関係ある職業又は産業における同一性質の労働に対して」「劣らない有利な賃金・労働時間その他の労働条件を関係労働者に確保する条項を包含しなければならない」と同一価値労働・同一報酬の適用及び労働者の安全衛生を確保する「公契約条項」を明確にして、その実施を強制する措置をとることとしている。
われわれは、この「条約」の批准を求める。日本政府は「民間部門の賃金その他の労働条件は関係当事者である労使間で自律的に合意されているものであり、政府が介入するのは不適当である」と批准する意思がない。また、資本側は「使用者に自らが当事者となることを選ばなかった労働協約の条件を課そうとするもの」「健全な公共到達に干渉するな」「団体交渉の自主性に反する」「調達される商品及びサービスの質を損なう可能性がある」などと批准促進に反対している。
「公共サービス基本法」と「公契約条例」
「公共サービス基本法」(2009年5月13日成立、7月1日施行)は民主党を中心とした議員立法で、「安全かつ良質な公共サービスが、確実、効率的かつ適正に実施されること」「社会経済情勢の変化に伴い多様化する国民の需要に的確に対応するものであること」などを基本理念としてあげているように、スムーズな「行革」推進法である。
ただ、第11条で「公共サービスに従事する者の適正な労働条件の確保等の労働環境の整備」を謳っている。「連合」がこの「法」の評価を「効率と競争最優先から公正と連帯を重んじる社会の構築に向けた第一歩」としているが評価しすぎであろう。
自治労は政策提言の中で、「公共サービス基本法」の理念を活かして「公共サービス基本条例」と「公契約条例」を制定するべきだという。さすがに自治労は「まず民間委託ありき」の発想には反対するというが、といって「直営堅持」ではなく、「どちらを選択すべきか多面的な検討を前提とする」、あるいは「民間移譲においては、その当否を市民(住民)に判断を求める」と、主体性のない他力本願的な政策提言だ。そして、「公共サービスの質を担保しつつ、よりよい公共サービスの実現につながる協働としていく」と。
「公契約条例」と「労働条項」の現状
2008年6月、山形県が初めて県条例として公共調達の基本を定めたが、「労働条項」は法令順守どまりであった。翌年の2009年5月、尼崎市で議員提案の「公契約条例」案が2票差で否決された。2009年9月、野田市で初めて「公契約」に係わる最低賃金を公共工事と業務委託に導入した。2010年になり江戸川区、川崎市と関連条例が整備され、国分寺市、新宿区などでは最低賃金等を定める指針を作成した。また、今年に入り、相模原市、渋谷区、国分寺市では「公契約条例」が制定された。
自治体業務に携わる公共民間労働者は「非正規雇用」労働者が五割を超えており、年収200万円という実態であると自治労の調査報告がいう。まさに〝官製ワーキングプア〟だと。また、「違法派遣」や「偽装請負」が横行していることも明らかになっている。あるいは、東京都足立区のように「請負契約であっても直接仕事を指示できるように」「最長3年までという派遣期間を無期限か、延長してほしい」などと「規制緩和」を要求するところもある。
「公契約条例」が否決はされたが、尼崎市での運動は、業務委託された職場の組織化を進め、組織拡大とともに不安定な雇用と低賃金の実態を明らかにし、さらに住民票入力業務に携わる労働者が「人間を入札するな!」と訴えて、無期限ストライキに突入する闘いで職場を守り抜いたという。委託労働者の闘いが、官民貫いた地区共同で闘われたということこそが重要である。
「公共サービス基本法」の理念で「公契約条例」制定運動を進めるという限りでは、「規制緩和」によって違法・脱法状態の実態を合法とされていくことに対して抵抗できない。「制度改正」で「公正契約」と「公正労働」が保障されるか。
入札資格などのペナルティから逃れるために「労災もみ消し」をする業者や低賃金・不安定雇用で労働者を搾取しまくる資本が、相変わらず受注者となり、自治体労働者の「現場力」の低下に相まって、ろくな仕事しかできていないのが実態だ。
国家公務員の7・8%賃金切り下げ(臨時特例法)を「公務員の労働基本法の回復・自律的労使関係確立の約束」という取引で丸呑みした「連合」。しかし、「国家公務員制度改革四法」案が成立せず廃案となり、賃金切り下げ臨時特例法だけが成立しているという状況。その「国家公務員制度改革四法」案も、はじめから争議権―ストライキ権は付与しないものとされて「協約締結権回復」などを内容としている代物である。
「連合」・自治労が支持している政府は、嵩にかかって国家公務員の退職金官民較差400万円余りを解消するとして支給率15%削減を閣議決定し、衆参での委員会質疑・本会議採決をわずか一日で強行決定した。この退職金削減攻撃は地方へも影響して、すでに都労連の確定闘争では、ストライキを構えはしたが11月15日の「暁の大脱走」で妥結し、都職員の退職金は現行最高支給月数が59・2月から45月へ削減されることとなった。
われわれは仮に組合が担ぎあげた革新自治体首長であっても、労働条件改悪攻撃に対しては徹底して闘うということでなければならなかった。
この少数意見に対して、社民・日共は首長を守るために総屈服方針を職場に強制した。自らの労働条件切り下げ攻撃に対決できずに取り込まれる「公契約条例」制定運動は、ILO94号条約とは縁もゆかりもないものになってしまいはしないか。条約の批准を求める要求こそが重要であろう。