Ⅱ部 講演 「これからの『非正規』争議への教訓化のために」

パナソニック争議をめぐる教訓について講演する吉岡さん
パナソニック争議をめぐる教訓について講演する吉岡さん

 パナソニックPDP争議、元ですね、元争議当該の吉岡力です。「これからの『非正規』争議への教訓化のために」と言うことで、私が話すのもおこがましいとは思いますが、自分が2005年3月からずっと闘ってきて、こうすればよかったなとか、また逆に今日こういう形で話をして今後つなげていけたらいいなとか、そういう話をしていきたいと思います。‥‥レジュメに沿って話をしようと思います。

 (僕自身、)、裁判でやろうと考えていたんです。労働組合という存在そのものを知らなかったと言うのが実情で、一番初めに相談したのが、弁護士ではなくて司法書士の方、亡くなった父親の知り合いの方に相談して、それで、労働問題専門の弁護士のほうがいい‥‥、餅屋は餅屋だと言うことで紹介されて、それで裁判やろうと考え(たんです)。‥‥当時2004年の4月ですね、「偽装請負」という言葉自体が、世の中にあまり知られていなくて、自分自身も知らなかったんですね。それで僕は二〇代の時働き始めて、さまざまな製造現場に行きましたけれど、全部「偽装請負」で働いていて、自分と同じ年代、もしくはもっと若い人たちも全部不安定な「偽装請負」で働かされていたんですね。そのとき、ひとつの製造現場で話してたのは「どうせ俺の将来ホームレスですから」とかで、働きながら将来先行きがないということを同じ年代の若い子たちがうすうす感じながら働いていて、腐った魚の目という状態で働いていた。自分もそういう状態だったとおもいますが、そういうこと言わないでがんばってやっていこうや、みたいな感じで自分も働いていた。そうした中で、みんなが「パナソニックに限らず、吉岡君と同じ状態で多くの若い子たちが働かされている」「誰かが声をあげれないかな」と言うんですね。そのとき自分の状態は、父親が亡くなって、両親もいないという状況でしたので、家族のしがらみもないし、「自分が起ち上がって闘います」と言うところから始まったんですね。はじめ、プロフィールに書いてありますが、移籍話で‥‥「吉岡さんは現場できちんと働いていて他の従業員にも仕事を教えてくれているので、いい条件出します」と‥‥移籍先の会社ではなくて、パナソニックPDPの班長が言ったんです。それでそのことを信じていたにも関わらず、まったく逆、労働条件がかなり下がったものを提示されて、これは違うじゃないですかと、これなら移籍できませんよと言ったんです。そうしたら「君は辞めざるを得ないぞ」と夜中の3時に呼び出されて、はっきり言って脅迫に近い形で言われたので、これは許せないということから‥‥争議が始まっています。‥‥弁護士から労働組合に入って闘ったほうがいいですよと言われて、労働組合がどういうものかもあまり分からなかったんですが、どうしても許せないということで労働組合に入って、それで闘ってきたわけです。‥‥労働局に「偽装請負」を是正するようにという「是正申告」などして、「指導」がでた。会社もそれで報復行為でクビにすることができなくなった。ただ、自分が所属していた請負会社自体との契約を切るという形で、吉岡を切ったのではなく請負会社が切ったという形にして、雇用契約を切ろうとしたんですね、パナソニックが。それで、そういうことじゃなくて、「偽装請負」というのは、レジュメにあるように「黙示の労働契約」、つまり「違法な労働契約だから労働契約は働き始めた時点に遡及した形で正しい労働契約に改めなければいけない」ということがあり、「『偽装請負』という契約自体がおかしいでしょう、働き始めた当初から違法な契約な訳ですから、自分はもともとパナソニックの従業員でしょう」と。これは「職業安定法」の考えですが、もともとパナソニックの従業員として雇用しなければいけないものを、請負会社が切ったからと言って、私のクビを切っていいのかという形で、団体交渉を進めた。「労働者派遣法」の考え方では、当時製造業派遣は一年しか認められなかったので1年になる前に、「直接雇用」の申込みをパナソニック側がしないといけないんですね。それ自体していないじゃないかと。「職業安定法」の考え方でも「労働者派遣法」の考え方でも私のクビを切ることはできないじゃないかと言うことで団体交渉を進めた結果、パナソニック側は、パナソニックは認めてませんけどね、「労働者派遣法」に違反したという形で「直接雇用」しましょうとならざるを得なくなったんですね。うまいこと組合としてもクビを切らない形で交渉を進めていたわけです。当時僕が所属していた組合ですけども、全労連系、大阪労連地域労組に所属して、うまいこと交渉が続いていたわけです。ただ、「直接雇用」という言葉に、これが食わせ物で、「正社員」でなければならないというわけではないんですね。「期間従業員」という形で、期間がきたらクビですよと。雇用はするけど六ヵ月後にはクビですよと。これ、完全に報復じゃないですか。そうですよね、せっかく従業員になったのに。パナソニックの「正社員」の人にも仕事を教えていたにも関わらず、たった六ヵ月でクビというそういう契約書にサインをしなければ雇用契約しませんよと。これはっきり脅迫に近いんですが、ただ、働かなければ霞を食って生きろと言うわけには行かない、生活できないということで、‥‥「直接雇用」の期間が5ヵ月、交渉で1ヵ月減って、5ヵ月という形で雇用契約を結んだ。そういう中で裁判も進んでいきました。一番最初の「非正規」労働者ということで、声を上げ始めた時に、新聞「赤旗」とか、「週間金曜日」とかが記事を書いてくれたこともあって、徳島で同じように闘いをしていた人とトヨタ総行動で初めて会って、そこから同じ境遇の人がいると初めてわかった。労働組合に関わらず、自分で何ができるかとがんばってやってきた結果が、栃木のキヤノン争議の方や兵庫県の方とかと一緒にやりましょうとなった。マスコミも「偽装請負」という言葉自体知らなかった。自分が積極的に働きかける中で、雑誌や新聞が取り上げるようになった。世間が注目している中で、これは個人の問題ではないということで、共同の取り組みをやりました。その共同の取り組みは裁判の傍聴やデモなどしたときにお互い協力したり、僕の場合、全労交のさきがけかも知れませんが、「『偽装請負』を内部告発する『非正規』ネット」という団体名を名乗って、同じ境遇のキヤノン争議当該やトヨタの孫受けで徳島の光洋シーリングテクノで働いていた方、彼はJMIUですね、それと武庫川ユニオン、どこにも加盟していない団体ですね、新社会党系の労働組合とかと一緒に厚生労働省とかILOの日本事務所に交渉に行ったり、高裁判決が出たあとは、全労連とか「連合」に「申し入れ」ですね。どうして全労連と「連合」に行ったかと言うと、どちらも「非正規」センター起ち上げてますよね。

パナソニックの株主総会に対して情宣を闘う吉岡さん(昨年6月)
パナソニックの株主総会に対して情宣を闘う吉岡さん(昨年6月)

 高裁では「非正規」労働者の権利を守るそういう「黙示の労働契約」を認めた判決がでたということで、この判決を支持してくださいと、「連合」の「非正規」センターも全労連の「非正規」センターにしても、「非正規」労働者の雇用を守りましょうと言ってくれているから支持してほしいと言うことで行ったわけですが、芳しい答えはなかった。その辺のことは、フリージャーナリストの方の本で「世界で一番冷たい格差の国・日本」という本に書いてあります。なんで協力しないのかと言うことで書いてあります。関心のある方は、労働組合とか「連合」とか全労連が「非正規」労働者の権利を守ろうと言っている実態をうかがい知ることができます。‥‥。朝日新聞のキャンペーンとして2006年7月に日立、キヤノン、パナソニックという日本を代表する大手企業が「偽装請負」という違法行為を行なった(ことが暴露された)‥‥。その後いろいろな新聞、雑誌でこの問題を取り上げた経過があります。マスコミは、経団連とかが「非正規」労働者を増やしていこうとするそういう政策を推し進めている(ことを暴いた)。自分も当時知らなかった、製造業で10年くらい働いていたが、違法だとおもったことは無かった。それは自分だけではなくて同じ製造現場で働いている人たちみんな知らなかった。それが、キヤノンや日立やパナソニックなど日本を代表する企業が当たり前のように行なっていたというのを(知って)、実際自分が見てきたこともあって、これは何も知らない若い子達に限らず、今までそういう形で働いてきた人たちをも国家ぐるみでだましてきた違法行為じゃないか(ということがわかった。)当時そういう発言を大分しました。そういう状態だったことを多くの人に認識させることができたと言うことは良かった点かなと思います。‥‥。

 政治組織MDSの問題ですが、主題からそれるので少しだけにします。中労委を闘っているとき、私は賭けに出ました。不法行為、人権侵害を行なった点について、パナソニックの社長でなくてもいいから、誰か出てきてきちんと謝罪してほしい、それだけでかまわないと。この問題について職場復帰を望まないが、最高裁で認めたことはきちんと本人に謝ってほしいと言ったところ、パナソニックは誰も出したくない、代理人が文書を読み上げるだけだといったので、そんなものおかしいじゃないかといったんです。そんなことでは自分は和解しないと言っていたんです。それはツイッターでも宣言していました。しかし、昨年6月26日にパナソニックの株主総会があったんですが、パナソニックの株主総会の前に、これは自分は争議抱えて一番最後の行動になったんですけど、その行動を控えほしいということを政治組織のMDSのトップの方が言うんですね。どういうことだと。4月19日の中労委で、「誰も出したくないと言ったことに自分は怒っている」「吉岡抗議行動しようよ」と言っていたのはその方だったんですね。それでそのとき自分は働いていたので自分もしたいけど事情もあるので、ただ効果的な行動をしようとは考えていると。効果的というと株主総会と言うのが一番最適で、株主の方にこの問題について解決しようとしない会社ですと宣伝するわけですから。それを控えてほしいと。どういう理由ですかと聞いたら、MDSのナンバー2の方がいるんですが、その方がメールを送ってきたんです。自分の了解もなく、勝手にパナソニック側の代理人と、パナソニックの代理人が読み上げる形での和解でOKだというやり取りをしていましたと。メールに書いているんです。これは絶対に許せないんです。自分はパナソニックが謝らないなら謝らないということで、自分はやるべきことはやったという形でもって行きたかった。文章を読み上げるだけの形でやりたかったわけじゃない。自分は争議を自分が納得する形で、パナソニックがやった人権侵害ということについては、パナソニックの誰でも構わないから担当者がでて、いろいろあったけど悪いことしたと、その一言がほしかっただけにも関わらず、代理人が読み上げるだけでいいだのと交渉を勝手に進められたことについては、やってはいけないこと(です。)‥‥。

 今後の課題として、労働組合の役割と書いてますが、組合ができることと言ったら、団体交渉、労働委員会への「申立」、これは弁護士つけなくても組合としてやることができます。それと争議行動。これを駆使して労働組合は組合としてやるべきことは一人の雇用を守ると言うなら、組合がやるべきことをやり抜くべきと思います。‥‥。労働組合は、団体交渉と労働委員会を駆使して何とか雇用を守っていく、労働条件を切り下げないようにやっていくというのがいいと思いますが、裁判でやるのは最終手段ですから、自分の場合は労働組合自体知らなかったという事情がありましたけれど、裁判ばっかりでやるっていうのは、労働組合としては大恥だと思います。‥‥。裁判でやるにしても、自分が主体としてやらないと結局だめになってしまうということです。‥‥。弁護士は結局代理人であって、弁護士主体の裁判闘争は本来するべきではないと思っています。

 「労働者派遣法」の改悪の問題ですが、政党にも「申し入れ行動」をしているとき、これは民主党政権のころで、共産党に「申し入れ」をしたときに言っていたことですが「労働者派遣法」は「人身売買」であって、無くさなければいけないと思うが、労働者の「人身売買」を認めた法律をより良いものにしましょうという意味が私には理解できないと。これ嫌味で言いました。「労働者派遣法の抜本改正」といって、無くそうとする人との運動を分断したという経過がありましたが、それについて「まあ、吉岡さんの言うとおりですけどね」と。本気で取り組む気がないんですよ。そんな運動は関わってはいけないと思うし、意思を貫いてやるべきだと思うし、やはり「人身売買」ですからね。「労働者供給事業」がずっと禁止されていた時があって、「派遣法」ができて変わりましたけど。そういうことで運動はやっていかないといけないと思います。‥‥「筋肉増強剤」と一緒なんです、「労働者派遣法」って。一度やっちゃいけない「筋肉増強剤」を打って、成績が上がって、そのときはいいかも知れないけどあとで気づいたらボロボロになる。それは「非正規雇用」労働者をどんどん使って使い捨てた結果、企業が堕落していくという構造になっていくと自分は思っています。

 6月26日のパナソニック株主総会での情宣行動が最後の行動になりましたが、そのときなかまユニオンはきませんでした。きてくれたのは釜ヶ崎の人たち。応援に来てくれました。感謝しています。