9月区議会で「世田谷区公契約条例」を制定

「官製ワーキングプアを生み出すことがあってはならない」

9月区議会で「世田谷区公契約条例」を制定

             世田谷地区労事務局長 根本善之


 2014年9月の世田谷区議会で「世田谷区公契約条例」が成立


 本年9月16日から開催された定例世田谷区議会は、「世田谷区公契約条例」を成立させた。区議会企画総務常任委員会(以下、企総常任委)の審査では、「ペナルティを課すべきだ」「入札制度改革を合わせて行うべきだ」との意見もあったが、全会一致で可決・成立した。

 「官製ワーキングプアを生み出すことがあってはならない」と2006年12月に東京土建世田谷支部・建設ユニオン世田谷支部・世田谷区職労・世田谷地区労が中心となり準備会を作り、翌2007年2月に第1回公契約シンポジウムを開催、その4ヵ月後の6月「公契約推進世田谷懇談会(以下、「懇談会」)を結成、取り組みを進めてきた。ワークショップを始め、職場実態調査、アンケート、ヒアリングを行ない、公契約にかかわる現場労働と賃金等を明らかにし、世田谷区、区議会各派、業界団体等への要請を行なってきた。また、これまで6回にも及ぶ公契約シンポを区との共催を含め開催するなど、関係諸団体との議論を深め世論を広げてきた。

 2011年3月、第1回定例区議会は、「懇談会」が提出した「公契約条例に係る検討委設置を求める請願」を全会一致で採択した。採択を受けた区は、同年9月に学識者や弁護士、区理事者による「検討委」を設置。実態調査やヒアリング、2年間にわたる論議を経て2013年8月に「公契約条例制定の意義」「世田谷区にふさわしい公契約制定をめざす」「第三者委員会を設置し、条例の実効性を確保」などの「最終報告」をまとめた。同「報告」をもとに区は、11月13日の企総常任委に「世田谷区契約条例(素案)」(以下、「条例素案」)を報告したが、「条例素案」は、「公契約条例」を違法視する動きとともに、労働報酬下限額を欠如するなど、「公契約条例」に不十分な内容となった。「懇談会」はただちに公契約シンポを開催。建設・福祉・介護・自治体非正規の労働者、建設協会など分野別リレートークを行なった。その中で「公契約条例」への期待・要望が多数寄せられた。2013年11月27日から開催された定例区議会でも「条例素案では不十分」「見直しを求める」などの意見が相次いでだされている。「懇談会」は、区議会終了後、保坂世田谷区長に「公契約条例制定により、公共事業の質の向上と区内事業所の育成を地域経済の活性化、区民福祉の向上にむすびつけるために従事労働者の適正な労働条件が確保されること」などの要望書を手交、要請した。

 区はその後、「懇談会」・事業団体・区議会各会派との協議・検討を重ね、当初「案」を修正、2014年9月2日の企総常任委に提示、区議会審査に付した。9月16日からの区議会審議では「労働報酬下限額を守らない場合、ペナルティを課すべき」「入札制度改革も行うべき」などの意見も出された。区は、この「条例」の性格から「下限額を守らない場合、契約を解除したり、公表や指名停止を行うなどペナルティを課すことはしない」「公契約条例でなく、別の条例で指名停止等は可能」、また入札制度改革についても「具体策を示していく」等、見解を示した。そもそも「懇談会」は事業者の裁量・意志まかせではなく、「区長の責任で下限額以上の賃金が支払われるよう」求めてきたのである。「事業者が下限額を十分尊重し、適正な賃金が支払われるようにする」との記述から、「公契約条例」では「下限額を遵守することにより、労働者に適正な賃金が支払われるようにする」と「尊重」から「遵守」へ変更された。


「懇談会」の指摘と要望を一定反映した「世田谷区公契約条例」


 「公契約条例」は、「懇談会」の指摘と要望を一定反映したものとなっている。

 その一つは、「懇談会」が繰り返し指摘してきた入札、契約の実態についての社会経済情勢の認識をその前文に―「採算を度外視した受注(中略)、事業者が置かれた厳しい経営環境の実態が浮き彫りになり(中略)、労働者の労働条件が悪化」「低賃金の常態化とともに高齢化や若年層入職者の激減に伴う技能労働者の不足が顕在化」と記述した。

 二つに、その目的を「公契約において適正な入札等を実施し、公契約に係る業務に従事する労働者の適正な労働条件を確保し、及び事業者の経営環境の改善を図り、もって公契約に係る業務の質の確保、区内産業の振興及び地域経済の活性化、並びに区民の福祉の増進を図る」とするなど、「懇談会」の要望に沿う内容となった。

 三つに、基本方針の(四)に「公正な労働基準が確保され」、(五)に「区内事業者の受注や区内在住労働者が雇用される機会が確保される」など、「懇談会」が具体的に指摘・要望した内容が盛り込まれた。

 四つに「公契約適正化委員会」「労働報酬専門部会」の設置を定めるとともに、区長の責務として「労働報酬専門部会の意見を聞いて(中略)事業者が労働報酬下限額を遵守することにより、労働者に適正な賃金が支払われるようにする」など、労働条件が確保され、改善される仕組みを作った。

 五つに、この「条例」は区が発注する建設・土木の3000万円以上の公共工事のみならず、福祉・保育・介護・清掃など1000万円以上の業務委託や指定管理者等、広範囲の対象となった。また、受注企業だけでなく、その下請けで働く労働者もすべて「公契約条例」の下に適正な労働条件が確保されるようになった。

 9月26日区議会の成立を受け、「懇談会」は10月2日の運営委で「世田谷区公契約条例制定に向けた声明文」を発するとともに、2015年4月施行に向けた取り組みを決めている。

 「世田谷区公契約条例」は、都下では2012年2月の多摩市をはじめ、国分寺市、渋谷区、足立区、千代田区に次ぐもの。しかも、首長のトップダウンの制定ではなく、準備会を含め、8年の「懇談会」活動をとおして「条例」を制定させたものである。建設分野だけでなく、福祉・介護・子育て・自治体非正規など公共工事・自治体サービスに従事する労働者がナショナルセンターの違いを超えた地域労働運動として取り組み、「世田谷区公契約条例」制定へと押しあげたのだ。

 「施行規則」「労働環境チェックシート」の確立をはじめ、「条例」に基づく「公契約適正化委員会」「労働報酬専門部会」への労働団体代表者の推薦をとおした「条例」適用への実効性の確保、施行に向けた「懇談会」運営委の体制強化など課題は少なくない。労働現場での闘いを強化しなければならないことは言うまでもない。