「世界の労働運動」

世界の労働運動

 

「ストつぶし」の「労働組合規制法」案と民営化攻撃にストライキで対決するイギリス労働運動

 

 昨年7月、スト制限のための労働法改悪攻撃と公共部門賃金の凍結攻撃に対決して100万人以上が1日ゼネストを貫徹したイギリス労働運動は、2015年に入っても保守党・キャメロン政権が強行する全面的な「労働組合規制法」案と公共部門の民営化攻撃に対決して闘いぬいている。

 今年7月、キャメロン政権は、労働組合の活動に対する全面的な規制強化のための法案を議会に提出した。その内容は、第1に、ストライキを批准する組合員の投票について、これまで投票者の過半数が賛成票を投じることを「スト権確立」の要件としていたものを、組合員の50パーセント以上の投票を要件として課し、これを下回る場合はストライキの実施を違法と規定している。第2に、交通や保健、教育、消防、入国管理などの公共サービス部門については、組合員全体の40パーセント以上の賛成と4ヵ月ごとの投票を義務付けている。第3に、組合費のチェック・オフ(給与からの天引き)の廃止を打ち出し、労働組合の財政に打撃を与えようとしている。第4に、公共部門における労働組合の職場代表の活動を制限するために、組合代表の数や就業時間に占める組合活動時間を制限する権限を雇用主に与えるとしている。第5に、ストライキの実施に際して労働組合が雇用主に対して行なうべき事前通告の時期を、従来の7日前から14日前に延長し、経営者に「ストつぶし」の時間を与えようとしている。第6に、ピケッティングの実施に際しては、「ストライキに参加しない労働者に対する脅迫や嫌がらせの予防」と称し、代表者を決めて警察当局に登録することを義務付けるとしている。第7には、公共部門でストライキ中の労働者の欠員補充に雇用主が派遣労働者を利用することを認め、「スト破り」要員として「非正規雇用」労働者を動員する内容も含まれている。まさに、全面的な「ストつぶし法」案だ。

 「イギリス労働組合会議」(TUC)は、この攻撃を「政府は、投票率要件の制度化により合法的なストライキの実施をほぼ不可能にし、極端な歳出削減に対する公共部門労組の対抗手段を封じる意図がある」「ストライキの実施を困難にすることにより、政府は低賃金・不安定雇用を濫用する雇用主を優遇しようとしている」「法案は、不公正、不必要かつ非民主的である」と強く批判している。TUCが指摘するように、この全面的な「ストつぶし法」案は、世界大恐慌爆発情勢に直面するブルジョア政府が取っている「緊縮財政政策」―首切り・賃下げ・民営化攻撃を強行するために、労働組合の抵抗を封殺することを目的としたものだ。

 この「ストつぶし」の「労働組合規制法」制定攻撃のなかで、公共部門の民営化攻撃も激化している。ロンドンのナショナル・ギャラリー(美術館)では政府の歳出削減に伴う補助金の減額に対応するため、経営側が収益改善策として営業時間の延長などを計画していた。しかし、労働時間や処遇をめぐって労働組合側との交渉が難航、これを受けて、経営側は、昨年7月、来館者に対する窓口サービスやガイドなどを民間委託する方針を示した。これに対して、TUCに加盟する「公務員組合」(PSC)は、今年2月から断続的にストライキを闘い、8月からは無期限ストを宣言して延べ100日以上のストライキを闘いぬいた。

 ストライキは、9月下旬に通算で100日を超え、人員不足から多くの展示室の閉鎖が続いた。現地メディアによれば、美術館の来客数は、この間、35パーセント減少したという。組合による電子署名活動には13万人超が署名を寄せ、このほか芸術家やジャーナリスト、他労組など多くの人々が組合支持を表明した。民間委託の撤回は実現しなかったものの、経営側と受託事業者は、就業場所を含む労働条件の継続を約束、また委託契約についても1年後に見直しを行なうとしたほか、「委託費に関する内部情報を上部団体の交渉委員に提供したことが守秘義務違反にあたる」として解雇された職場委員の復職も認めた。組合側は、民間委託の廃止に向けて、引き続き闘う意志を表明している。