Ⅱ部 元原発労働者・原発労働裁判原告 梅田隆亮氏の講演

被曝労働強制への怒りと全原発の廃止にむけて闘う梅田氏
被曝労働強制への怒りと全原発の廃止にむけて闘う梅田氏

Ⅱ部

 

梅田隆亮氏(元原発労働者・原発労働裁判原告)の講演

 

 私は、1979九年の2月から6月にかけて中国電力島根原発や関西電力敦賀原発の定期検査作業に従事し、仕事を終えて帰宅後、原因不明の鼻血や吐き気、めまい、全身倦怠感に教われるようになりました。7月に長崎大学病院で検査をすると、コバルト、マンガン、セシウムなどの内部被爆が確認されたため、労災の申請を考えましたが、日立プラントなどによる圧力のため、断念せざるを得ませんでした。原発は国策としてやっており、国策を問題にする原発労働者の声を相手にするメディアはいませんでした。2000年の3月に急性心筋梗塞を発症し、2008年の9月に島根労基署に労災を申請しましたが、業者の資料では被ばく線量が8・6ミリシーベルトしかなく、原発での定期検査の作業との因果関係を否定され、労災の不支給決定を受けました。その後も審査請求、再審査請求を行ないましたが、すべて棄却されていました。

 3・11の大震災が起き、「福島第一原発事故」が発生したことで関心が高まり、やっと2012年の2月に労災認定を求めて福岡地裁への提訴に踏み切ることができました。4月15日が判決言い渡し期日です。私が裁判官に対して最後の意見陳述をやった時に、私の裁判のほとんどで傍聴席にいた鈴木さんが居られました。私は支援、連帯ということを痛感しました。この場を借りて御礼を述べたいと思います。御礼とは、いろんな思想信条の人たちからの支援に対してです。私は今日の集会のような労働者のための闘いを知りませんでした。

 原発は、結局、労働者の労働に対して対価を払うような現場ではありません。我々の原発の中での作業を世の中に出してくれたのは、樋口健一さんというカメラマンです。原発の定期検査では重装備で作業をやります。現場の温度は30度から40度近くになる。重装備をするのは、労働者の安全を守るためではありません。外に被ばくの線量が出ないようにするためです。労働者と言うのはまったくモノ扱いです。部品・パーツです。私がびっくりしたのは、何か品物を運ぶように言われるのですが、その品物はものすごい放射線量があるんです。人間の命にとっては秒単位のものです。ところが、そういう危険性についてはまったく説明しない。放射線は色も臭いもしない、管理区域と非管理区域の違いも目には見えない。そこがものすごい放射線量であることは東芝や三菱の担当者はよく知っている。それをしっかりと話してくれない。定期検査に入った労働者は2割ぐらい帰ってしまいます。残りの八割の労働者で一ヶ月間、二ヶ月間の定期点検をやれといっても無理なんです。だから、まともに安全教育をしたと業者が言ってもダメです。セシウムは半減期が30年です。我々が家に帰って鼻血が出たり、吐き気とか頭痛が出てくる。体の外側ではわからない。それで長崎大学医学部でホールボディカウンターで検査してはじめてコバルトとか出て、医師が診断書を書いてくれた。それから労災を申請し、残りの人生を送れるんじゃないかと考えました。しかし、たった8・6ミリシーベルトの被ばく線量しか記録は残っていない。これはおかしいなということで、調べたら、記録は全部100以下のものしかない。1人の人間が全員分を書いているんです。そういう過酷な労働があったことを長崎新聞が初めて記事として出した。その次に、東京新聞が出した。TBSが家に来て「報道特集」という番組で取り上げた。それから報道機関が次々に来ました。ドイツ国営テレビ、フランスからも、それでかなり海外にも飛んだ。それでもやっぱり国策でやっているから、私の裁判が勝つということは、いろんな面で困るんですね。川内原発の再稼動につづいて、九州の佐賀の玄海原発が再稼動しようとしている。日本に原発は54基あります。私が定期検査で行ったのは、島根原発、次に福井県の敦賀原発です。建設から40年経ったら廃炉にしないといけないんですが、あと5年、あと5年と先延ばしにする。13ヶ月に1回、定期点検をやらないと原発の運転はできないと法律で決まっています。1回の定期検査で3000人を集めなければならない。自分のような原発労働者の被ばくの問題がテレビなどで取りあげられることはほとんどなかったんです。当時はヤクザが来たり、嫌がらせの電話がありました。原発の仕事はものすごいお金が元請けに入る。そんなことも労働者は知らされていません。ドイツからうちに取材が来ました。ドイツには「多重下請け」という言葉がないから訳しようがない。元請けには1人10万円くらい入るが、何重もの下請けの自分たちには1万円ぐらいしか入らない。今になってもう少し現場で気になったことを聞くべきだったと思っています。

高い放射線量のなかで原発の定期点検作業にあたる原発労働者
高い放射線量のなかで原発の定期点検作業にあたる原発労働者

 安倍首相が再稼動を強行しようとしている。ドイツは全部廃炉にしています。原発の運転はロボットではできない。人間の手がないと。東電が福島第一原発でロボットでやっていますが、途中まではできても傾いて倒れたらできない。もうロボットは動けない。長時間ロボットがそこにいると燃え出す。溶解です。こんな恐ろしい現場でよく54基も細長い日本列島でやってきたなと思います。

 外国の放送にも出て、いろんな方にも支援していただいたんですが、本当に「大丈夫ですか?」「元気でやってますか?」私は時々体がうまく立ち上がれないんです。借家の家の前は草がぼうぼう生えています。鈴木さんが来て、草むしりまでやっていただきました。いろんな団体が来て、いろんな支援をやってくれましたが、やはり感じるのは人間性です。思想信条、結社、宗教、憲法で自由だと認められていますが、改めて御礼を申し上げたい。

 原発をどうしても止めたい。ここまで来たら下がれない。来月の15日に判決です。まぐれで勝訴したら、向こうは控訴するでしょう。もう私はそう長い命があるわけではありません。暴力団の奥さんがペーパーカンパニーを作って、若い人を集めて原発に送り込んでいたことが摘発されたということが続々出ています。人間が集まらないというところまで追い込みたいと思っています。皆さんの力をお借りしたいと思って、今日やってきました。福岡で多くの支援を受けましたが、ギャーさんの支援は本当にこころ暖まるものです。佐賀県の玄海原発では交付金が年間50億円出ていました。原発が止まっている間は交付金も下りない。玄海原発が再稼動すると全国から原発労働者が来て、民宿に泊まることになる。その民宿の組合長から電話があって「梅田さん、もういい加減に止めたらどうか?裁判に勝つわけがないよ」と。だけど最近は電話はピタッと止みました。原発に働きに行く人が集まらないところまで追い込みたい。それまで鈴木さんや皆さんの力をお借りしたい。ここで野垂れ死にするわけにはいかない。ここまで来たら一矢報いて頑張って皆さんのご支援に報いたいと思っています。

 原発で働くのは、炭鉱で坑内作業で働いていた人が多かった。ホームレスの人が暴力団にだまされ原発に行って、半年で死んだ人もいた。診断書は「心不全」。死亡診断書は「心不全」でも何でも書ける。被ばく線量の記録は残っていない。「本当の私たちが被ばくした線量をはじき出して下さい」と裁判で争った。

 皆さんたちの闘いがなかったら、年間3万人の自殺者がまだまだ増えていくと思います。皆さんの連帯がなかったら、まだ悲惨な死に方をする人が出てくる。皆さんのやっていることが命をベースにした非常に貴重なものだと思います。

 今度の判決で敗訴しても、弁護団のほうは上級審まで闘うと言っています。そこまで命があるか・・・。しかし、私は大きな精神的な拠り所を得ました。労働者、そして命を守るために闘っておられるみなさんに心から敬意を表します。こうした原発の話をすると非常に力が入ります。原子力発電所で働く作業員の労働というのは人間のやる作業ではない。早く言えばドイツのナチスと変わらない。ウラン燃料の沸騰型原子炉、それを冷ますためのプールがあります。それに間違って2人が落ちた。そしたら慌てて監督たちが来て、毛布でしずくが垂れないようにくるみ上げて連れて行った。3ヵ月後に亡くなって、原因は「火傷」となっている。ヤケドです。水の中でヤケドしている。それほど原発の中での仕事は命がパーツ・部品になる。

 福島の郡山に行きました。子供の甲状腺ガンが多発している。除染作業で土を1センチ削り、その土が風で舞い、通学路に舞う。ガンになりやすいのは小学生だと言われています。原発で働いた人は100万人いるが、労災を認められたのは13人だけです。みんな白血病やガンで亡くなっています。長い人は七年ぐらい経ってからです。再稼動しようとしても人が集まらないようにすることが私の使命だと思っています。皆さんのこころ暖まる御支援をこころから感謝しています。

防護服を着たままで休息をとる福島第一原発の労働者
防護服を着たままで休息をとる福島第一原発の労働者

質疑

 

 私の義理の兄貴が「異形成骨髄炎」という病・白血病にかかっているんですが、こういうのも原発が原因しているんでしょうか?

 

応答

 

 いろんな症例が今盛んに出てきています。私は医者ではないので断定できません。樋口健二さんが台湾に行って、台湾の原発で作業して亡くなられた方が火葬されたときに、親族がガイガー検知器で計ったら、ものすごい反応が出てきたということがあったそうです。骨にも血液の中にも放射能の影響があると疑っていいのじゃないかと思います。島根原発で、朝原発の作業に行くと、原発の廃液が海に流れ込んで魚に入り、ボラがぴくぴくして死んでいるのを見ました。冗談で「刺身にしたら旨いんじゃないか」と言っていましたが、作業を終えて帰るときにはきれいに片付けられていました。中国電力は漁業権を買い占めていますから、漁民は何も言えない。原発はなくす以外に手立てはないと思います。

 

質疑

 

 原発労働者の被ばくの問題は、労働組合が取り組まなければならないと思います。一番酷い被ばく労働を強いられている下請けの労働者の労働組合を作り、責任追及の闘いが求められていると思いますが、下請けの原発労働者を労働組合に組織化するには何が必要でしょうか?

 

応答

 

 当時は全然そういう発想がなかったんですが、元原発作業員の斉藤征二さんが私の裁判の証言に立ってくれました。この人は正社員と同じ立場で炉心で15年間働いて、今、ガン、白血病の症状が出ていることを証言してくれました。この人が一度労働組合を作ったらしいんですが、そうすると日本共産党からみごとに潰されたと聞いています。やはり、労働組合を作って闘うのがベストだと思います。原発で働くしかない人からの反発もあるようです。今後この問題をどのような形に持っていくのか、私の判決が出た後にいろんな波紋が出てくると思います。大変いい質問ですが、これくらいしか答えられません。

 

質疑

 

 原発で働く労働者は全国に散らばっているでしょうし、労働者の考え方の違いもあると思います。資本の分断を超えて闘い、原発労働者を組織化し、原発をなくすには、どう闘ったらいいでしょうか?

 

応答

 

 「文芸春秋」に元首相の小泉が反原発の文章を書いています。1ワットの電気代の中に政治献金したお金、政治的に使ったお金が全部入っています。3年前に裁判を提訴した時に、有楽町の電気連合会のビルの一角で「福竜丸」の船員の方と私と軍医として被曝者をたくさん見てきた方の3人で話し合いをして食事を一緒にしました。たしかに「アリと象のケンカ」と言われるけれども、政府の言いなりになったら、一番被害を受けるのは末端の労働者です。一番弱い立場の人が大きなリスクを負わされます。