世界の労働運動 「朴槿恵退陣をかちとり、労働者階級の権力樹立にむかう韓国労働運動」

「朴槿恵退陣」をかかげ、ソウル市中心部に結集した韓国労働者人民
「朴槿恵退陣」をかかげ、ソウル市中心部に結集した韓国労働者人民

世界の労働運動

 

朴槿恵退陣をかちとり、労働者階級の権力樹立にむかう韓国労働運動

 

韓国総人口の3分の1にあたる労働者人民決起

 

 「全国民主労働組合総連盟(民主労総)」を中軸とする韓国労働運動は、昨年10月下旬に発覚した「朴槿恵―崔順実ゲート事件」と呼ばれる朴槿恵政権の腐敗を追及し、朴槿恵政権打倒にむかう最大230万人、韓国総人口の3分の1にあたる延べ1700万人にのぼる韓国労働者人民の連続的な大衆決起の中心部隊として闘いぬいた。そして、3月10日の憲法裁判所による罷免決定により朴槿恵の退陣が決定した。闘いの局面は、韓国労働者階級が、5月8日に行なわれる大統領選挙を前に、体制内改良運動への集約を許さず、革命的階級的党、組織の建設をもって労働者階級の政治権力樹立をなしうるのか否かという局面に来ている。

 昨年10月24日の韓国のテレビ局・JTBCの報道を発端として、朴槿恵とその「長年の友人」である崔順実をめぐって、大統領側近による崔への機密漏洩、崔が私物化していた「ミル財団」等への出資強要、崔の娘の梨花大学への不正入学・不正単位取得などが次々と発覚した。これに対して、10月29日、ソウルで3万人が結集して抗議集会とデモが闘われた。当初、この日の集会は、2000人規模と見られていたが、朴槿恵への批判が急激に高まり、3万人の結集となった。闘いに結集する労働者人民の数は、週を追うごとに増えていった。「朴槿恵は、退陣せよ」のプラカードで埋め尽くされた闘いは、10月29日、11月5日、12日、19日、26日と、5週連続で闘われ、全国化し拡大した。11月12日には、「民主労総」などが主導する約1500団体で作る「朴槿恵政権退陣非常国民行動」が、100万人超の決起で大統領府を包囲し、ソウル中心部を制圧した。11月19日には、ソウルで70万人、他の地域では35万人が決起した。11月26日には、ソウルで150万人、全国合わせて200万人が参加した。全国農民総連盟の農民らは、1000台のトラクターで上京しようとしたが、ソウルの手前で警察権力に阻止され、30人が連行されるという弾圧を受けながら、トラクターを置いてソウルに駆けつけた。淑明女子大、西江大など全国20以上の大学で、同盟休校が闘われた。全国99大学の学生たちは、「朴槿恵政権退陣!全国大学生時局会議」を組織し、全国でデモの先頭に起ち闘った。さらに、11月30日には、「民主労総」の全面ストライキが闘いぬかれた。土曜日ごとの闘いは、回を重ねるごとに拡大した。

 12月9には、40日間の闘いによって、韓国国会で朴槿恵の弾劾訴追案が可決された。朴槿恵は、事件発覚直後の10月28日、大統領秘書官10人全員に辞表を提出させ、事態の乗り切りをはかろうとした。これが破綻すると、11月2日には、首相、副首相、国民安全処長官の首をすげ替える人事案を発表したが、野党の反対で撤回した。朴槿恵の与党・セヌリ党は、当初、朴槿恵の防衛に動いた。だが、「監督不行き届きを謝罪する」なぞというアリバイ的な「謝罪」と人事刷新で乗り切ろうとする朴槿恵への労働者人民の怒りを鎮めることはできず、逆にセヌリ党が実質的に分裂する事態となった。また、「退陣」を要求しない野党への労働者人民の突き上げが強まり、弾劾訴追案の可決という事態となったのだ。

 

「労働市場構造改革」との闘いの中で蓄積してきた力の爆発としての「キャンドル革命」

 

 韓国労働者人民は、与党セヌリ党の実質的な分裂や、野党に朴槿恵の弾劾訴追案の提案を強いる爆発的な闘いを闘った。その背景にあるのは、朴槿恵政権の数々の悪政に対する積もり積もった怒りの爆発である。「民主労総」を先頭とする労働者は、政府による「労働市場構造改革」の中で、低賃金、劣悪な労働条件を強制され、ゼネスト、街頭実力闘争を連続的に闘いぬいてきた。「民主労総」は、かねてから2016六年の連続的なゼネスト決起で蓄積してきた力と拡大してきた労働者の部隊を首都・ソウルに集中し、11月12日に、朴槿恵政権打倒にむけた「民衆総決起闘争」を設定していた。その準備の最中に「朴槿恵―崔順実ゲート事件」が発覚したのだ。

 韓国の自殺率は、非常に高く、「経済協力開発機構」(OECD)加盟国の中で1位だ。その要因として大きいのが、若者の失業率が高いことだ。韓国統計庁が発表した「2016年年間雇用動向」によると、若年層(15歳~29歳)の失業率は、9・8パーセントだ。若年層の失業率は、2010年以降毎年上昇している。また、韓国では、「非正規職」が多く、5割が「非正規職」と言われている。大学を卒業しても、7割は「正規職」に就けない。民間企業では、「成果年俸制」が導入され、成果によって賃金が決定される。この「成果年俸制」が公共部門の鉄道や水道にも導入が策動されている。「成績の悪い労働者は、絶対数ではなく、比率で下から1パーセント~2パーセントを解雇する」という制度だ。さらに、韓国社会では、貧富の「格差」が著しく進行している。時給6030ウォン(約585円)未満で働く労働者は、222万人に達している。こうした中、「七放世代」と呼ばれる「恋愛」「結婚」「出産」「マイホーム」「人間関係」「夢」「就職」の七つをあきらめざるを得ない層が急増し、若者の怒りが渦巻いている。今回の「朴槿恵―崔順実ゲート事件」で、特に韓国の若者の怒りを呼んだのが、崔順実の娘の梨花大学への裏口入学だ。非常に厳しい受験競争に苦しんでいる高校生、大学生などの若者の怒りが大きく高まった。農民は、コメの暴落による農家の破綻に怒っている。慶尚北道星州郡に予定されているアメリカが開発した最新鋭の地上配備型迎撃ミサイル・「高高度防衛ミサイル」(THAAD)配備に対する怒りと闘いも強まっていた。

 こういった背景があるが故に、「キャンドル革命」とも呼ばれる今回の朴槿恵政権打倒の闘いは、単に朴槿恵や崔順実の個人的な問題ではなく、韓国社会の問題として、大統領府、あるいはセヌリ党、「全国経済人連合会(全経連)」、マスコミなどを闘いの対象として闘いぬかれた。特に、韓国社会を支配している財閥である「サムスン」「現代」「SK」「LG」などの30財閥が牛耳る「全経連」への怒りが高まり、これらをすべてひっくり返さなければ根本的な韓国社会の変革はできないというところまで労働者階級の怒りと闘いは鋭くなっている。

 

「『投票を越えて闘争へ! 全世界労働者たちとの連帯!』を通じ、資本主義に終末を告げる時だ」

 

 2月25日、今年初の民衆総決起闘争に労働者、農民、学生、青年、「貧民」など30万人が結集した。この闘争の前段には、全国の大学生約100団体からなる「大学生総決起大会」が、「青年の雇用を作れ」「最低賃金1万ウォン実現」「国定教科書破棄」「朝鮮半島へのTHAAD配備撤回」「韓日慰安婦合意破棄」「軍事情報保護協定破棄」など10項目の闘争課題を掲げて闘われた。ソウル市光化門で開催された集会では、起亜自動車華城社内下請分会の金・スオク分会長が、「財閥の金庫には財物が溜め込まれ、青年は、カップ麺も食べられずに死んでいった。非正規職、整理解雇、労組弾圧のない新しい世の中は、労働者と青年が共に作る」と訴え、「民主労総」のチェ・ジョンジン委員長職務代行は、「誰が大統領になろうが、私たちが闘わなくてはいけない。いまこそ民衆が主体になった闘争を始めなければならない」と決意表明し、全国女性農民会の金・スネ会長は、「政府が食用米を輸入し、大企業の農業進出で農民は崖っぷちに追いやられた。農民闘争は、民衆の力でさらに強く進む」と決意を述べた。この後、土曜日ごとの「朴槿恵政権退陣非常国民行動(退陣行動)」主催の第17次汎国民行動に合流した。この行動には、100万人が決起している。

 韓国労働運動の爆発の中で、資本による報復攻撃が激化している。2月はじめの時点で、「民主労総」だけでも1600億ウォンの損害賠償が請求されている。1月25日には、釜山高等法院が、2010年に「非正規職労働者」たちが「正規職化」を要求したストライキに対し、90億ウォンの損害賠償判決を打ち下ろしている。これに対し、「民主労総」などは、「損害賠償仮差押えの制限による労働基本権保護」「個人に対する損賠仮差押え請求の禁止」などの「労働関係調整法改正」を要求して闘っている。

 朴槿恵の退陣をかちとった韓国労働者階級は、大統領選挙や体制内改良運動への集約を突破して闘いぬこうとしている。3月20日から24日までの5日間、「民主労総」が主催した「闘争事業場共同闘争機関」として「労働悪法撤廃! 労働法全面制定・改定! 労働三権争奪! 闘争本部」(仮称)を結成するために行なわれた全国巡回闘争に参加した労働者の投稿の一部を紹介する。「『共同闘争』は、労働者の生活条件の向上に終わらず、それ以上の闘争、 つまり資本主義を撤廃する闘争へと発展させなければならない。 その意味で「共同闘争」の提案と巡回闘争は、労働者階級を欺瞞するためにブルジョア分派と手を握る共同戦線とは明らかに違う。こうした理由で、私はこの巡回闘争にさらに関心が向いた。もちろん『闘争本部』を構成するためには、断絶して解決すべき課題が山積している。 それでも資本主義の危機とそれからまぬがれようとする新しい世界大戦に直面している現状況で、 『共同闘争』の提案は、工場から、現場から追い出され、行き場がない労働者たちの単なる叫びにとどまっては決してならない。 危機の瞬間に資本は国家に団結するように、今やわれわれ労働者は 『投票を越えて闘争へ!、全世界労働者たちとの連帯!』を通じ、 資本主義に終末を告げる時だ」。