「世田谷区公契約条例」で区非常勤・臨時職員賃金は特別区人事委勧告(〇・二パーセント)を上回る一・〇パーセント~三・九パーセント(最大六・三パーセント)引き上げに!
世田谷地区労事務局長・全労交呼びかけ人 根本善之
区のお知らせ「せたがや」3月1日号は、〝区の契約における「労働報酬下限額」を改訂しました〟――と「世田谷区公契約条例」に基づき、2017年4月1日以降、区が発注する建設・土木や区の業務に従事する労働者に支払われる賃金の下限額を定め、事業者はこの下限額を上回る賃金を支払うよう告示した。
また、保坂世田谷区長は、2017年度、区予算案のプレス発表に先立ち、1月10日の年頭記者会見で次のように述べている。
「区では入札制度とあわせて、公契約の適正な履行と区内産業の振興及び地域経済の活性化を目指して公契約条例を一昨年4月1日から施行した。条例施行と同時に、附属機関の『公契約適正化委員会』(以下『委員会』と記す)と『労働報酬専門部会』(以下『専門部会』と記す)を設置した。(当該委員会に)『区内産業の振興や地域経済の活性化を図るための入札制度改革』・『公契約の適正な履行を確保するために必要な施策』について諮問したところ、昨年8月に答申が出された」(答申を受け)「今後の経済状況や賃金水準の動向、区の財政状況や給与体系の状況なども考慮し、『労働報酬下限額』(以下『下限額』と記す)を改定した。予定価格3000万円以上の工事請負契約における労働報酬下限額は、国土交通省が定める51職種の技能労働者のうち、技能熟練者を公共工事設計労務単価の85パーセント相当額とし、見習い等の技能未熟練者を公共工事設計労務単価の軽作業員比70パーセント相当額とし、これらに該当しない者は、1時間あたり1020円とする。予定価格2000万円以上の工事請負契約以外の契約(委託等)における労働報酬下限額は、1時間あたり1020円とする。この結果都内区市の中で一番高い金額となった」「国では昨年6月の閣議決定により最低賃金を年率3パーセント程度引き上げ、全国加重平均が1000円となることを目指しているが、区はこれを上回る1020円を労働報酬下限額として設定した。今後も公契約における適正な入札等の実施と、労働者の適正な労働条件の確保を、車の両輪にして進めていきたい」との考え方を示したのである。
「公契約推進懇談会」の活動が2014年9月、「世田谷区公契約条例」を成立させる
「公契約条例」は、2014年9月区議会で全会派の賛成で成立、翌2015年4月施行した。
長引く不況と自治体財政の逼迫を背景に、ダンピングが横行していた。そして、「官製ワーキングプアを生み出すような事があってはならない」との問題意識と「従事労働者の処遇改善」「公共サービスや事務事業の質の向上」をめざそうと、東京土建世田谷支部、建設ユニオン世田谷支部、世田谷区職労、世田谷地区労など、地域の労働組合が中心になり、2007年2月、「公契約シンポジュウム」を呼びかけ、同年6月「公契約推進世田谷懇談会」(以下「懇談会」と記す)を発足させた。
「懇談会」は、建設分野だけではなく、介護・福祉・保育・「自治体非正規」など、区行政の各分野関係者とのワークショップ、実態調査、アンケート、ヒアリング等で公契約に関わる現場の労働と賃金を明らかにし、区担当者や、区議会各会派、業界団体等との懇談・要請を重ねてきた。また、2009年7月の「よりよい公共サービス・事業を考えるつどい」の開催など、6回のシンポジウムを区との共催を含め開催してきた。
「懇談会」の9年間の取り組みが、区行政を「公契約条例は必要」との認識に至らしめ、世論をつくり、さらには区議会の論議を深め、2010年に「公契約条例に係る検討委員会設置を求める請願」を提出し、「公契約条例」制定は、区議会の全会一致で採択されたのだ。
「労働報酬下限額」を「建設業、設計労務単価の85パーセント、委託等の時間単価1093円」を報告、区は委託で950円に値切る!
「公契約条例」は、2015年4月に施行され、区長委嘱の「委員会」と「専門部会」が設置された。「下限額」設定や「入札制度改革」が審議され、「答申に向けた検討状況の中間報告」(以下「中間報告」と記す)が2015年12月28日にまとめられた。
「下限額」について、「専門部会」は「委託事業については時間単価1093円、建設・土木事業については、公共工事設計労務単価の85パーセントをそれぞれ下限額とする」等のとりまとめを「委員会」報告とした。
2016年度区予算案に合わせ、区は、「下限額」を次のように決めた。
「予定価格3000万円以上の工事請負契約」に係る「下限額」は、「公共工事設計労務単価の85パーセント相当額(見習い等については別途)」、「予定価格2000万円以上の委託等に係る下限額は、時間単価950円」とした。委託に係る「下限額」については、「先行する自治体の状況を参考に検討した。具体的には、生活保護基準、最低賃金、臨時職員賃金等を参照した。委託の「下限額」については、臨時職員の賃金額が相当と判断した」と説明している。
「中間報告」に示された「区職員高卒初任給の割り返し基準」から「臨時職員賃金基準」への尺度で「中間報告」1093円を大幅に値切る内容となった。そして、これを「2016年4月1日に告示し、同年7月1日以降に契約締結する案件に適用する」とした。ちなみに委託契約のほとんどが、1年契約・4月1日契約日であり、7月1日以降の契約は、その1割にすぎないとの説明がなされている。
第8回シンポジウムで、「入札制度改革」と「委託下限額」の再設定を申し合わせる
世田谷区2016年度予算では、「中間報告」で示した「下限額」が実質的に値切られ、「入札制度改革」の具体化も先送りされるなど、「委員会」・「専門部会」の論議と「答申」を尊重しないものとなった。
こうした保坂区政の状況を変え、「公契約条例」にうたわれた「適正な労働条件の確保」と「経営環境の改善」・「区内産業の振興及び地域経済の活性化並びに区民生活の安全安心及び福祉の増進」を実現させるべく、「懇談会」は4月15日に8回目のシンポジュウムを開催した。
今回のシンポジウムは、「連合世田谷地区協議会」との実行委形式で開催し、労働者・事業者・行政・区議会議員など200人が参加した。保坂区長のあいさつを含む行政担当者からの説明と「委員会」「専門部会」の委員である労働者・事業者・学識者・弁護士からの報告、意見表明、さらに会場からも意見・要望が出された。区議会の各会派からも見解・意見表明が行なわれた。
第8回シンポジウムは、閉会のあいさつの中で「最終答申に向け、地域経済の好循環、区民生活の安全という共通目的のために、入札制度改革と公契約条例(=委託の「下限額」の再設定)を同時に推進していく事」を申し合わせた。
2017年度「委託下限額」1105、6円を算定!「2年をかけて実現」で「下限額」1020円を「迅速に実施」を「報告」
「委員会答申書」と「専門部会報告書」は、8月31日までに取りまとめられ、9月7日、保坂区長に手交された。また、同20日開催の区議会企画総務常任委員会にも報告された。
「答申書」の「はじめに」では、「低賃金の常態化のため、技能労働者の高齢化と若年入職者の減少による労働力不足」から「公共事業の品質の確保にも」「技能労働者の処遇改善と建設業の健全な経営環境の確保が必要」と指摘した。また、「さらなる区内産業の発展を目指し、地域経済を活性化させるためには、入札制度改革をはじめとした産業振興施策等の展開が必要」「適正な労働環境の維持や適正な契約履行、事業者の受注機会の確保をはじめとした区内事業者の育成など、区内産業の発展や地域経済を活性化させることで、区民福祉の向上・増進を図る」ことなど、――「条例が適正に運用される」ことを求めている。同「本文」では、「条例」の目的を実現するために、「適正な労働条件の確保」(適正な労働報酬下限額の設定と、法定福利費の確保)、「入札制度改革」(設計と積算の分離や適正な予定価格の算出等)、(条例の啓蒙や検証・評価・改善などを行なう)「専担組織の設置」、(条例周知・説明の)「広報や制度説明」、(他自治体の条例とは異なり)「不利益扱いを設けていないことから、条例運用や労働条件確認帳票のチェック体制強化」を提示している。その上で、委託に係る「下限額」について、「区の臨時職員の一時間あたりの時間単価ではなく、区職員のうち高卒で就労した者の初任給を時間換算した金額から算出する」「算出される金額を(中略)社会経済情勢等をみながら、速やかに引き上げていくべき」としている。
「報告書」では「下限額」の算定方式――1105、6円・算出根拠を示したうえで、「財政歳出への影響の配慮から、2年をかけて実現することが適当」とした。2017年度の委託等の「下限額」を1020円とし、「迅速に実施されるべき」としている。さらに「条例適用事業であることの明示」「条例適用に伴う実施状況、問い合わせ、説明、申し立て、苦情、違反等に関する受け入れ先を設け、周知させて報告させる」「条例適用の事実把握のため、抜き取り調査・監査し、事業者及び労働者調査を報告する」など、「条例の実効性を確保するよう求める」としている。
区非常勤・臨時職員賃金を「区公契約条例」により回答 サービス公社で働く「障害者」も時給1020円に!
世田谷区は、1月26日、区に働く非常勤・臨時職員等の報酬「4月より950円を1020円に改訂をはじめ、平均1・0~3・9パーセント(最大6・3パーセント)引き上げる」と公務公共一般世田谷支部に回答した。外郭団体のサービス公社臨時労働者の賃金――「障がい者の保護的就労」現行932円(東京都の最低賃金)も1020円に引き上げられた。
当該支部ニュースには、「23特別区人事委勧告(0・2パーセント)を上回る報酬引き上げ」、「報酬アップの推進役〝世田谷区区契約条例〟」等々と共に「(障がい者の賃金が最賃を大きく上回ることは)働く障がい者の大きな励ましとなった」との声が寄せられている。
また、「懇談会」が区にその担当係設置を求め、さらに「委員会」「中間報告」答申の中でその必要性を記している「専担組織の設置」について、区は4月の組織改正で「公契約担当係長」を新たに設ける事を決めた。
第1回定例区議会が2月22日に召集された。代表質問では、「公契約条例の本格実施により、労働者の賃金を引き上げ、官製ワーキングプアの解消に一歩を踏み出すことが重要だ」と指摘。「委託事業の労働報酬下限額が時給1020円に設定され、これに連動して区の臨時職員の時給単価も引き上げられるなど、約4億6000円が賃金引き上げにあてられた」「公契約条例の実効性を担保するための取り組みを着実に行なう事、入札制度改革もあわせて進めることを求める」と公契約条例の運用・改善を問うた。これに対して、「区ではこれまで、公契約条例の着実な取り組みにあたり、区広報紙やホームページ、説明会などを通して周知を図るとともに、公契約適正化委員会の答申を踏まえ、労働報酬下限額の決定や適正な労働条件の確認、入札時の最低制限価格の見直し、設計積算チェックの検討などを行なってきた」「さらなる実効性を確保するため、よりきめ細かい周知や社会保険労務士など専門家を活用した労働条件確認の見直しなどに努めるとともに、前払金の支払い方法の充実や総合評価方式入札制度の見直しなどの入札制度改革に取り組む予定」と返答した。
「懇談会」運営委員会は、第9回公契約シンポを5月25日に開催することを決めた。①公契約条例の周知②2017年度労働報酬下限額の周知③条例の適正な運用④入札制度改革の前進を課題とし、「委員会」「専門部会」を、「条例」の趣旨・規定に即して運営を求めていく事、またこれを支える地域の労働組合運動の強化が求められる。