第Ⅱ部 講演「緊迫する朝鮮半島情勢」

朝鮮半島情勢が緊迫する中、日朝連帯闘争の重要性を訴える北川氏
朝鮮半島情勢が緊迫する中、日朝連帯闘争の重要性を訴える北川氏

 

Ⅱ部 講演

「緊迫する朝鮮半島情勢」

 

北川広和氏(関東学院大学非常勤講師・「日韓分析」編集長)

 

李明博政権や朴槿恵政権は、恐怖政治を10年間続けてきた

 

 皆さんこんにちは、北川です、よろしくお願いします。「キタガワ」と言うと、朝鮮問題では、一般的には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のことを指すんですが、私の名前をネットで検索すると、「北朝鮮の手先」とか、「朝鮮総連の回し者」、あるいは「非国民」など、ある意味では名誉なことを言われています。

 私が出しているのは『日韓分析』です。これは1980年から出しています。光州民衆蜂起があった年からです。「日朝分析」でも「朝鮮分析」でもなく、『日韓分析』です。何故かというと、その当時、日本企業の韓国進出問題、韓国労働者に対する搾取・収奪の問題があり、この問題を研究しつつ、韓国の労働者を支援し、連帯することに関わってきたからです。ですから、今日も、北朝鮮の立場に立って考えるのではなく、北朝鮮に対する報道が余りにも酷く、非難ばかりで、北朝鮮の立場も理解する必要はあるだろうという立場から述べるわけです。同時に、南の今の文在寅政権の下での労働者民衆の立場も尊重しながら、北も南も対等な立場から客観的に分析することが必要じゃないかと思っています。アメリカと日本も同じです。できる限り客観的に見ていくということで、今日はお話していきたいと思います。

 最初にお話しなければならないのは、「南北首脳会談」がどうなるのかです。「南北首脳会談」の直接の契機になったのは、平昌で開かれた冬季オリンピックでした。2月9日に開会式がありましたが、主催国として、韓国チームが北朝鮮の選手団と一緒になって、同じユニホームで白地に青く朝鮮半島の地図を染め抜いた「統一旗」を掲げ、朝鮮民謡の「アリラン」が流れる中、合同で行進した。アイスホッケーの女子では、南北合同チームで「KOREA」と書いたユニホームを着て一緒に戦いました。南北の和解・融和が大きく前進したということがあります。

 このことについて、日本のマスコミは、「韓国の若者は猛反発している」「大反対なんだ」という報道を繰り返し流しました。このことは皆さんもご存知だと思います。しかし、北朝鮮の選手団が参加することに反対する人はほとんどいません。女子アイスホッケーの統一チームができると、出場するはずだった韓国の選手が何人か弾き飛ばされる、ベンチに入れなくなるので、韓国の女子選手に対する同情心から反発する声が上がったということが実態だと思いますが、日本のマスコミは、「大方の韓国の若者は反対している」と言っています。一定の層として、今回の南北合同チーム作りや合同行進に対して反発を強めた若者が層としているのは事実だと思います。しかし、、日本のマスコミは「韓国の若者が」と言っているのです。その他の中年や高齢者は、すべて全面的に賛成しているんです。それは何故かというと、この10年間、韓国は保守政権だったんです。李明博政権、朴槿恵政権と合計10年間、保守政権が牛耳っていた。中学の3年間、高校の3年間、大学の4年間、多感な時期を保守政権の下で過ごしてきた。若者の中には、「北は同胞ではないんだ」「何をするかわからないから怖い」という意識が芽生えてきてもおかしくない。李明博政権や朴槿恵政権は、北朝鮮のことを「良い国」だとか、「理解しましょう」という奴は、みんな「国家保安法」で摘発して投獄するぞという恐怖政治を10年間続けてきた。そういう中では韓国の若者たちは萎縮せざるを得ないし、「北は同胞ではないんじゃないか」「敵じゃないか」と思い込まざるを得ないという側面はあったと思います。それに対して、今の文在寅政権は、「これは保守政権がもたらした悪弊、積弊の一つなんだ。財閥と政府の癒着と同じように清算しなければならない問題だ」として、昨年6月の就任演説で「できるだけ早く南北首脳会談を実現する」「南北関係の改善を目指す」ということを明言した。それがまさに、今、実現しようとしているわけです。

 平昌五輪では北朝鮮から高位級代表団が訪韓しました。代表団の中には、実質的には北朝鮮の元首の位置にあり、90歳を超えた最高人民会議常任委員長・金泳南さんと、朝鮮労働党の副部長であり、金正恩の妹の金与正さんが入っていました。そして、文在寅大統領との会談の中で、「私が金正恩委員長の特使です」と言って青いケースに入った親書を手渡し、「文在寅大統領ができるだけ早く平壌に来て共に会談することを望んでいます」と文在寅大統領に伝達しました。その伝達に応え、平昌五輪が終わってすぐ、韓国の高位級代表団が平壌を訪れて金正恩委員長と会談し、「4月末に南北首脳会談をやろう。場所は軍事境界線がある板門店の南側の『平和の家』でやりましょう」と合意した。

バリケードを突破してサムスン電子追及を闘う韓国労働者(4月3日、ソウル)
バリケードを突破してサムスン電子追及を闘う韓国労働者(4月3日、ソウル)

 

「米朝首脳会談」については、もう一つ不透明

 

 「南北首脳会談」が確定し、その後、「米朝首脳会談」もやる可能性が出てきました。日本のマスコミは、「文在寅大統領は、金正恩委員長の仲介者、メッセンジャー」と言い、週刊文春は、「ガキの使いだ」と見出しに書いています。しかし、実際には、そうではありません。もともと「南北首脳会談」は、文在寅が就任演説の中で言ってきたことです。「朝鮮半島の非核化をどうするか」ということについて、文在寅大統領は、「北朝鮮と米国の間で話し合いで解決すべきだ」と言っています。大きな違いが三つあります。一つは、「北朝鮮の非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」を目指す。安倍政権がしつこく言っている「圧力」「制裁」によってではなく、「対話」によって実現すべきだと言っています。もう一つ重要なのは、核兵器を実際に保有している北朝鮮と米国の間で話し合って解決すべきだということです。「米朝首脳会談」にむけた文在寅政権の思いは何か。核問題を南北間で持ち出さなくても済むようにすることです。「『非核化』は米朝間でやってもらって、南北間では別の問題を話し合いましょう」ということです。それは何かというと、民族問題です。南北朝鮮の自主的平和統一について話し合いましょうということなんです。李明博、朴槿恵の10年間の保守政権の前には、民主政権が10年間続きました。金大中、盧武鉉の10年間の政権は、民主政権であり、南北関係が大きく改善した10年でした。金大中も、盧武鉉も北朝鮮の金正日総書記と南北首脳会談を行なって共同宣言をそれぞれ一つづつ発表しています。文在寅大統領は、盧武鉉大統領の片腕だった人です。文在寅も、盧武鉉が培ってきた南北の自主的平和統一の道を確実にしよう、具体化しようということでの話し合いを四月末の「南北首脳会談」で実現しようとしているわけです。私は、この「南北首脳会談」は、必ず開催されて、大きな成果、大きな合意を産むと確信しています。また、そのことによって、朝鮮半島の非核平和が大きく前進すると確信しています。

 「米朝首脳会談」はどうか。マスコミは「南北首脳会談、米朝首脳会談が実現する」という立場から書いています。私は、「米朝首脳会談」につていは、もう一つ不透明だと思っていますし、否定的な見方をしています。実現しないんじゃないかと思っています。それは何故か。この間の経過を見ても明らかだと思いますが、トランプ大統領は、韓国から訪米団を招いて、その場で即断即決したわけです。「じゃあ、私も金正恩委員長と会いましょう。首脳会談をやりましょう」と言っちゃったわけです。何故、即断即決したかというと、もう、どうやら南北首脳会談は確定したので、それに対する牽制です。楔を打ち込もうということです。「勝手に南北でやっちゃダメだよ」と、「その後にアメリカが控えているよ」と、「アメリカが韓国の宗主国的立場にあるんだよ」ということを見せつけようしたわけです。ところが、余りにも性急だということで、トランプ政権内では批判の声が上がっています。特に一番批判的だったのが、国務省です。国務省がいない所で、ホワイトハウスの人間だけで「米朝首脳会談」を決めてしまった。「米朝首脳会談」をやるということを前提条件を付けないで言ってしまったかたちになっているんです。韓国の訪米団の話を聞き、「検討します」と言ったうえで、北朝鮮側が「これこれで譲歩すれば、条件を呑むならば『米朝首脳会談』をやってもいい」というふうに言えば良かったのに、何で最初から大幅に譲歩するような、首脳会談を無条件でやってもいいというようなことを言ったのか、という批判が国務省を中心に起こったわけです。極めてまっとうな批判だと思います。ところが、その批判を聞いたトランプ大統領は、国務省のトップであるティラーソン国務長官の更迭を決めたわけです。決めたと言っても、自身のツィッターで「お前はクビだ」というふうにです。まったく酷いやり方です。ティラーソン国務長官は、去年の秋、「トランプ大統領は馬鹿だ(ママ)」と言っていたんですが。ティラーソン国務長官は、どちらかというと、対話を重視する人物です。「非公式でも話し合いの場を作っておかないとまずいよ」「強硬一辺倒では、外交は成り立たないよ」という声を聞き入れなかったのに、急に「米朝首脳会談をやる」と勝手に決めたということで、ティラーソン国務長官も相当嫌気がさしたということもあったと思います。そのことによって、トランプ政権内の「対話派」「穏健派」が居なくなって、「制裁圧力派」「強硬派」が一層抬頭することになったわけです。これは「米朝首脳会談」の開催が余計難しくなった。相当な前提条件をこれから付けてくることになるだろうし、さらには、「南北首脳会談」を潰そうという動きさえ表面化しかねないという状況です。その「強硬派」「制裁圧力派」のトップに立っているのがティラーソン国務長官の後任になったポンペオというCIAの長官です。それからもう一人、ペンス副大統領です。この二人が、重要な位置を占めています。この二人は、キリスト教の「福音派」に属しています。平昌オリンピックの開会式で、最後に「KOREA」が入場してくる時に大歓声がおきたんですが、ペンス副大統領は貴賓席に座ったままで、仏頂面で、拍手もしないというシーンがありました。その隣にわが安倍首相がいました。安倍は、ペンスの真似をしたのかどうか分からないけれども、拍手もしない、立ち上がりもしない、無表情というシーンがありました。私は、それを見て思いました。世界で孤立しているのは、北朝鮮ではなくて、むしろアメリカと日本じゃないかと。そういう国際政治での孤立がはかなくもテレビの画面に出てしまったんじゃないかと思っています。

戦争挑発として強行されてきた米韓合同軍事演習
戦争挑発として強行されてきた米韓合同軍事演習

 

ペンスもポンペオも「福音派」の代表としてトランプ政権に乗り込んでいる

 

 その「福音派」とは何か。アメリカ最大のキリスト教の宗教勢力と言われています。「超保守的」と言われています。地動説さえも認めないような古い信者ばかりらしいです。それが何と6500万人もいる。有権者でいうと25パーセントになります。ペンスもポンペオも、「福音派」です。「福音派」の代表としてトランプ政権に乗り込んでいるということです。これがとっくに崩壊していても不思議ではないトランプ政権に残っている「岩盤支持層」の「福音派」だということです。たしかに、アメリカの軍産複合体をはじめとした巨大資本がトランプ政権を支えているのは事実ですが、実際の有権者で見ると、この保守的な「福音派」・6500万人がトランプ政権を支えています。だから支持率が30パーセントを切らないんです。ですから、トランプ大統領としては、「福音派」のポンペイとペンスを重用せざるをえない。今後も、そうした保守政治家に依拠した政策しか取れなくなるだろうということです。

 「福音派」の最大の教義は、「イスラエルを支持することが義務」というものです。1月にペンス副大統領は、イスラエル国会で演説し、「アメリカ大使館を2019年末までにエルサレムに移します」と発言して大喝采を浴びています。イスラエルが中東で最も鋭く対立している国家は、イランです。トランプ大統領は、イランとの核合意を「廃棄するぞ、廃棄するぞ」と繰り返し言っています。アメリカとイランだけでなく、ヨーロッパの各国も入っている合意なので、簡単には廃棄できないんですが、イラン敵視の立場です。今度、国務長官になったポンペオという人物は、2014年の下院議員時代に「2000回の空爆でイランの核施設を破壊すべきだ」と発言しています。そういうのをトランプは見ていて、ついには国務長官にまでしたわけです。

 イスラエルと北朝鮮の関係はどうなのか。イランと北朝鮮は、昔から親交があると知られています。最近は、「米中央情報局」(CIA)が「イランと北朝鮮は核ビジネス、ミサイルビジネス、化学兵器技術などで交流がある」という未確認情報を頻繁に流しています。つまり、イスラエルにとって北朝鮮は極めて危険な存在、事実上の敵ということになるわけです。ですから、ポンペオ国務長官もペンス副大統領も朝鮮敵視の政策、経済圧力を強める政策を取る。「米朝首脳会談」は、簡単にはいかない。

 

トランプ政権による核戦争演習の脅威が強まっている

 

 トランプ政権による核戦争演習の脅威が強まっています。昨日、米・韓の国防相が、4月1日から、米韓軍事演習を実施すると言いました。トランプ政権は、2月2日に、「核態勢の見直し」(NPR)を発表しています。オバマ政権下では「核なき世界をめざす」としたNPRを出していましたが、それから8年ぶりに出されたNPRでは、「ロシアや中国の核戦力増強と北朝鮮やイランによる核開発など、過去のいかなる時期よりも多様で高度な核の脅威にアメリカは直面している」と言っています。その上で、「爆発力を弱めた小型の核兵器を新たに投入する」としています。「実際に使う核、使える核を開発しよう。配備しよう」ということです。小型核の威力がどの程度かというと、TNT火薬換算で20キロトン以下とされています。戦略核は100から150キロトンですから明らかに小型なのですが、広島に投下された原爆は15キロトンです。広島に投下した原爆よりも大きい核を実際に使える核として、トランプ政権は、準備しているということです。また、NPRでは、「通常兵器による攻撃を受けた場合も核兵器で反撃する。同盟国の死活的利益を守るために、核兵器の使用も辞さない。核兵器の先制使用を否定しない」と言っています。同盟国である日本を守るためだと称して朝鮮半島に原爆を投下する恐れが強まったと言わざるを得ない。

 トランプ政権の今後の動向で注意しなければならないのは、平昌五輪後に実施するとした米韓合同軍事演習です。いったいどんな危険性があるか。昨年3月から2ヵ月間行なった軍事演習を見ると明らかです。まず、「核先制攻撃戦略」を柱とした「作戦計画5015」が適用されています。「核先制攻撃戦略」は、既に2002年にブッシュ大統領の時に確立しています。オバマ大統領もトランプ大統領も否定していません。北朝鮮側は、「核先制攻撃戦略はおかしいだろう」「国際法上も、人道上も間違いだ。やめろ」という要求をしてきているんですが、オバマ政権もトランプ政権も一切受け付けていません。グァムの米軍基地からB1戦略爆撃機が飛来して軍事境界線付近で爆弾投下訓練をやります。あと1分くらい飛べば北朝鮮領内に入るようなところで米軍が爆弾投下訓練をやる。この訓練には、岩国に配備されている米軍のF―35B戦闘機も参加しています。アメリカ海軍の特殊部隊・「SEALS」が北朝鮮指導部の首を刎ね、暗殺する作戦の訓練をやっています。10人弱の少数精鋭の部隊らしいですが詳細は明らかになっていません。これは、実際にパキスタンにいたオサマ・ビン・ラディンを殺害した部隊です。これがわざわざ朝鮮半島に来て「斬首作戦」の訓練をやって見せているわけです。「金正恩も命はないぞ」「いつでも暗殺できるぞ」と脅すわけです。それから強襲揚陸艦「ポノム・リシャール」や沖縄のオスプレイが参加して、韓国の浦行で上陸作戦をやっています。どこに上陸するのか。浦行の海岸線は、北朝鮮の東北部の元山の海岸線の地形によく似ていると言われています。そこへの侵攻作戦のための上陸作戦訓練だということです。

 昨日、今日の新聞報道によると、今年の米韓合同軍事演習は、期間が1ヵ月程度に短縮され、原子力空母が参加しないと言われていますが、爆撃機の投下訓練、「斬首作戦」訓練、上陸訓練をやらないとは言っていません。こうした訓練が、一歩間違えば本当の戦争になりかねない。本当の挑発行為です。北朝鮮側は対抗せざるを得ない。本当の戦争になってしまうということです。だから、文在寅大統領に対して、韓国の労働者人民から「危険だからやめろ」という声が上がっているわけです。

 私は、昨年の12月はじめに韓国に行ってきました。韓国の進歩勢力の人々といろいろ「来年、運動をどうしようか」と討論する機会がありました。次の日には、平昌五輪が開かれる韓国の一番最北端の江原道の高村というところの統一展望台で北朝鮮側を見渡しました。金剛山も薄っすらと見えました。今年に入って、北朝鮮の選手団の一部は、高村の統一展望台を通って韓国に入ってきました。そこで韓国の進歩勢力が何を言ったかというと、「来年は、反米自主の闘い強める。特に2月から実施されようとする米韓合同軍事演習は、断固阻止する。そのために、活動家の20人、30人が捕まってもしょうがない。そういう覚悟で大規模な米韓合同軍事演習反対闘争を展開します」と明言していました。

 私たち日本の労働者は、こうした韓国民衆の闘い、戦争につながりかねない米韓合同軍事演習を阻止し、平和を構築していく闘いに、是非連帯していかなければならないと思います。そのためには、どうしたらいいのか。トランプ政権の戦争政策に追従・加担する安倍政権を退陣に追い込むことが必要だろうと思います。

  メーデーを闘う韓国労働者(5月1日、ソウル)
  メーデーを闘う韓国労働者(5月1日、ソウル)

 

安倍首相がエストニアに行って「北朝鮮のミサイルは、エストニアにも届くからエストニアも狙われていますよ」

 

 問題山積みの安倍政権。国内問題で酷い状態で風前の灯のような状態にありますが、北朝鮮との関係、韓国との関係、あるいはアメリカとの関係でも、安倍政権には一日も早く辞めて欲しい。安倍政権は、この期に及んでもまだ「北朝鮮に対するあらゆる圧力を最大限かけていくべきだ」と言っています。「経済制裁」、政治的な圧迫、そして軍事的な挑発・威嚇を強めています。そして、トランプ政権のアメリカに追従しながら、あるいは日米一体化を強調しながら、さらにはトランプ政権をけしかけながら北朝鮮に対する制裁・圧力を強めています。「対話のための対話はしない」などと意味のわからないことを言っています。「経済制裁」については、世界で最も北朝鮮に対する強硬な「制裁」措置を取っています。輸出入を全面禁止するということをやっています。その影響で、私たちが北朝鮮に行くと、必ず帰りの税関で「トランクを開けてください」と言われます。「北朝鮮でお土産を買いました」と言ったら、没収―焼却処分になります。「輸入に準ずる」とみなされます。世界の190ヵ国の中で、北朝鮮と国交がある国が160ヵ国を超えています。国交がないのは、日本とアメリカ、フランスくらいです。フランスは、通商代表部を置いています。そのくらい、北朝鮮は孤立はしていない。

 政治的圧迫で言えば、これも酷いですが、安倍首相がエストニアに行って、「北朝鮮のミサイルは、エストニアにも届くから、エストニアも狙われていますよ。経済圧力をかけましょう」と言っています。実際には、北朝鮮側が繰り返し言っているのは、「アメリカがこれまでずっと北朝鮮に対して核の脅威を起していたから、これに対抗・抑止するために核・ミサイル開発をしたんだし、アメリカを会談の場に引き出すために核を開発したんだ」という主張です。ですから、日本を直接狙っているわけではありません。日本で狙うのは米軍基地です。日本には120以上の米軍基地があります。その米軍基地が狙われる可能性はあるだろうと思っています。昨年9月には、安倍首相が、国連総会で、「北朝鮮は脅威だ。これまでわれわれは北朝鮮にだまされてきた。対話で合意したけれども、北朝鮮はその合意を破ってきた」と演説した。しかし、これまで合意を破ってきたのは、アメリカであり、日本です。1994年に「米朝枠組み合意」ができています。1994年の6月にカーター元大統領が訪朝し、金正日主席と会談して基本合意に達して9月にジュネーブで「米朝枠組み合意」が成立しています。一つは、北朝鮮がソ連型のプルトニウムが抽出しやすい黒鉛減速炉をやめる。その代わり、アメリカが10年後までに100万キロワットの軽水炉2基を建設する。それと10年後まで毎年50万リットルの重油を代替エネルギーとして提供する。これは、アメリカが大きく譲歩する「枠組み合意」でした。何故、そんな合意をしたのか。1994年の6月にカーターが会談し、7月に金日成が亡くなり、CIAが「あと2、3年以内には、北朝鮮は内部崩壊するから、どんな約束をしても構わない」と言っていた。もう一つ、毎年重油50万リットルをどうするか。これは、「関係国、周辺国に出させるから良いんだ」ということで、日本、中国、韓国、ロシアを入れて「朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)」を作り、それに出させるということです。ところが2年経っても、3年経っても、北朝鮮は崩壊しないどころか、崩壊の兆候も無い。そういう中でアメリカは合意を放棄した。安倍首相は、演説の中で「北朝鮮に対して重油の代金として4億ドル分提供したのにムダだった。北朝鮮にむしりとられた」と言った。むしりとったのは北朝鮮ではありません。アメリカなんです。

 「経済制裁」、政治的圧迫と、もう一つが、軍事的な挑発・威嚇です。安倍政権は、米韓合同軍事演習に参加・参戦しています。米韓合同軍事演習の前後には必ず自衛隊と米軍との共同訓練を実施しています。日本にある岩国や嘉手納の米軍基地から米軍の艦船、あるいは戦闘機が軍事演習になると出撃する。日本の各地が米軍の後方支援基地としてフルに活用されています。また、アメリカ製の新兵器の導入も着々と進んでいます。護衛艦・「いずも」を空母にするということが最近の新聞に出ていました。F―35B戦闘機を日本が取得する。F―35Bは垂直離着陸ができる。これを導入して空母・「いずも」に乗せるという計画です。空母も、F―35B戦闘機も防衛のためではありません。空母はあくまで攻撃のため、侵略のためにある。また、「イージス・アショア」を2機導入することも言っています。「イージス艦」の地上版ということです。「イージス」とは、ギリシャ神話に出てくる、どんな攻撃も跳ね返す盾です。「イージス・アショア」は、ミサイルを発射してミサイルを撃ち落そうという、実質的には攻撃兵器なんです。これは、1機100億円します。設置場所は、秋田と山口です。朝鮮半島と山口を結んだ線の先にはグァムがあります。グァムには米軍基地があります。B1戦略爆撃機、あるいはB52戦略爆撃機が米韓合同軍事演習のたびに出撃している。さらに、今年になって、B2戦略爆撃機がグァムに戦略配備されました。B1とB2の違いは何かと言うと、B2は、核爆弾を搭載できます。朝鮮半島と秋田の先にはハワイがあります。ハワイにはグァムより大きい米軍基地があります。先日もハワイ島のほうで、小野寺防衛大臣も視察して迎撃ミサイル・「イージス・アショア」の発射実験をしました。これは、失敗しました。昨年の9月にもやり、それも失敗し、2回続けて失敗しています。小野寺は、視察から日本に帰ってきて「予定通り、導入―配備を進めます」と言っています。「イージス・アショア」の導入は、アメリカの軍産複合体を儲けさせるだけではなく、アメリカの基地を守るために配備するということです。そういうことをやっているのが安倍政権です。安倍こそ「非国民」です。

 

日本は、実質的な核保有国、ミサイル保有国

 

 もう一つ、日本は、実質的な核保有国、ミサイル保有国だということです。プルトニウムを47トンも持っています。47トンのプルトニウムは原子爆弾にすると6000発分に相当します。原子爆弾は、比較的簡単に作れます。ミサイルもそうです。そんなに高い技術水準がなくてもできます。北朝鮮は、核ミサイルを開発しました。戦略爆撃機は、ハイテク技術の集積で、これは北朝鮮には作れない。金ももの凄くかかるので、抑止力として核ミサイルを開発したんです。核ミサイルを開発することによって、通常の軍隊と兵器を削減することができる。削減した分を経済活動に回すことができる。それが金正恩委員長が言っている「並進路線」です。「核武力と経済建設の並進路線」。核ミサイルを作ることで経済建設が旨く行くという路線です。日本のミサイルは、H―2Aロケットが38号機になっています。北朝鮮が人工衛星を打ち上げた時に、日本政府は、「人工衛星打ち上げロケットは、弾道ミサイルに利用できるから脅威だ」と言いました。日本は38機も打ち上げている。いつでも弾道ミサイルを保有できる。核も保有できる。そういう危険な状況にあります。

 これだけ兵器も揃っている中で、あとは日本の国民、労働者の意識をどういう風に変えてゆくか。これを、どのように容認させて行く方向に変えてゆくかということです。そこで「北朝鮮の脅威」が利用されている。それが北朝鮮の弾道ミサイルが着弾した場合に備えての避難訓練、あるいは「Jアラート」訓練と言われているものです。去年からテレビでも流され、皆さんも経験したと思います。最近では、1月22日には文京区の「東京ドームシティ」で都内初の避難訓練がありました。これが実施できたのは何故かというと、安倍戦争政策を歓迎するだけでなく、自ら煽動している「読売グループ」・読売新聞の持ち物だからです。ここでそうした訓練をやることで「都心部でもやったんだから地方の自治体はもっとちゃんと避難訓練をやりなさい」という圧力をかけてきているわけです。2月の13日には文部科学省が全国の各学校に「危機管理マニュアル」の改訂版を作製し、3月中には配布するということと、全国の各学校が弾道ミサイル着弾の避難訓練をちゃんとやっているか、今年夏までには全国一斉調査を行なうと言っています。いづれも「避難訓練をちゃんとやれよ」という圧力です。そしてもう一つは3月14日、総務省消防庁がミサイル発射や災害情報を国が各自治体に伝える「Jアラート」の一斉訓練を実施しました。昨年11月に続いて、2017年度としては2回目になります。2018年度からは、これまでの年1回から年4回に増やすと言っています。北朝鮮が「当分、ミサイル発射実験はやりません」と言っているにもかかわらず、今年度から4回に増やすと言っているのです。つまり、安倍政権は、あえて「Jアラート訓練をやれ」「避難訓練をもっとやれ」と圧力をかける中で北朝鮮に対する警戒心、恐怖心、憎しみ、敵愾心を呼び起こそうとしているのです。そのことによって、軍事力増強の必要性を認めさせると同時に、「北朝鮮が実際に攻めてくることもあるんだから、われわれは専守防衛だけではだめなんだ。戦争のできる国作りが必要なんだ」「そのためには、憲法9条がジャマなんだ」「憲法9条の改悪も理解して下さいよ」と盛んに煽っています。

 安倍政権は、明らかに戦争への道をひた走ろうとしています。私たちは、こうした安倍政権の所業、悪行を絶対に許してはならないと思います。平和のためには安倍政権を退陣に追い込むしかない。それは同時に、韓国の労働者民衆、平和統一をめざす韓国の労働者民衆に連帯する道でもあると思います。安倍政権の崩壊、打倒に向けて、是非、皆さんと共にこれからも頑張って行きたいと思います。ありがとうございました。

 

質疑応答

 

 (略) 〈編集部責任転載〉