10・10 東京都山谷対策係との団体交渉を闘う
東京・山谷日雇労働組合
東京都社会福祉保健医療研修センターで団体交渉
東京・山谷日雇労働組合(東京・山日労)は、10月10日、「仕事よこせ」の闘いの一環として、東京都が山谷労働者などを対象にして実施している「特別就労対策事業」をめぐっての団体交渉を闘った。
東京都が実施している「特別就労対策事業」は、山谷地区を管轄とする上野職業安定所玉姫労働出張所(玉姫職安)などで「日雇労働被保険者手帳」(通称「白手帳」)、「求職受付票」(通称「段ボール手帳」)の交付を受けた労働者を対象にして、輪番制で都立公園、都立墓苑の清掃や港湾地区の除草作業、道路清掃などの仕事を紹介する事業だ。賃金は、日払いで約8000円だ。
この「特別就労対策事業」の歴史は、1973年の第一次オイルショックにさかのぼる。この年、山谷では急激に日雇い求人が減少した。アブレ(失業)―野垂れ死にに直面した山谷労働者は、東京都の山谷対策の現地窓口である「山谷労働センター」(現「城北労働・福祉センター」)に押しかけ、「失業の責任を取れ」「仕事をよこせ」とせまり、体を張って闘った。
この闘いを受け、東京都は、民間求人の減少を補うために「特別就労対策事業」を開始した。以来、45年間、この失業対策の仕事は、労働者から「東京都」や「輪番」と呼ばれ、失業―野宿に追い込まれる労働者にとって、貴重な就労機会として続いてきた。
東京・山日労は、この「特別就労対策事業」をめぐって、毎年、東京都山谷対策係(山谷対策係)との団体交渉を繰り返してきた。何故なら、「特別就労対策事業」は「民間求人の減少を補うために実施する」とされているのだが、山谷の日雇い労働者の主な就労先であった建設現場での求人が急激に減っているにも関わらず、それに見合った予算や求人数ではないからだ。朝の山谷に求人業者や手配師が来なくなり、多くの山谷労働者にとって、この事業が唯一の就労機会となり、現金収入の道になっている。しかし、その就労日数は少なく、1週間に1回就労できれば良いほうであり、予定求人数が終了すれば、就労現場が減り、10日に1回となったり、年度末の1ヵ月はまったく「輪番」がなくなってしまうのだ。これらを根本的に解決するためには、「特別就労対策事業」の予算を増やし、求人数を増やすしかない。これを実現するために、東京・山日労は、粘り強く山谷対策係との団体交渉を闘ってきたのだ。
今年度の団体交渉では、なかなか予算を増やそうとしない東京都の姿勢に加えて、民放のテレビ局が、インターネットで公開した番組で、山谷の「輪番」を取り上げ、司会が「山谷の労働者が甘い汁を吸っています」なぞと言い、コメンテーターに「税金の無駄遣いだ」なぞと言わせ、「輪番」そのものを無くすように煽動するということが発生した。
これを受け、山谷の労働者からは、「東京都は、『輪番』を無くすんじゃないか?」といった不安の声が数多く東京・山日労に寄せられた。また、この番組で取り上げられた道路清掃の仕事を東京都との間で契約した業者の求人が、3日―60人分の求人が終わっていないにも関わらず、山谷の労働者に対して何の告知もないまま、玉姫職安の「求人予定」の掲示から消されてしまった。これに対しても、東京・山日労には、多くの労働者から「道路清掃の仕事は無くなるんじゃないか?」という不安の声が多く寄せられた。
これらの不安の声と、「少ない『輪番』の仕事では食っていけない」という山谷労働者の声を受け、東京・山日労は、10月10日の団体交渉に臨んだ。東京・山日労が山谷対策係に突き付けた「申し入れ」は、「一、今年度の東京都特別就労対策事業(『輪番』の仕事)の予算、人工数などを明らかにすること」「二、道路清掃の業者の未紹介の仕事について、どうするのか、明かにすること」の二点だ。
文京区にある東京都社会福祉保健医療研修センターを会場にして、午前11時から開始される団体交渉には、「輪番」に就労する東京・山日労の組合員が、山谷対策係が出してきた人数制限を超える数で結集した。東京・山日労が団体交渉の会場に到着すると、会場周辺では、警視庁浅草警察署や本庁の公安デカが物陰から様子を窺っている。「反戦・反失業」を闘いぬく東京・山日労を、隙あらば弾圧しようと狙っているのだ。交渉団は、公安デカたちを一喝して交渉会場に入る。
「輪番」めぐる団体交渉を勝利的に貫徹
午前11時になり、早速、団体交渉が始まる。東京都側は、山谷対策係と、建設局や港湾局が発注する「特別就労対策事業」を取りまとめる産業労働局の担当者が出席した。交渉は、東京・山日労が突き付けている二点の申し入れに対して、担当の産業労働局が一括して回答し、それに対する質疑の形で始められた。
産業労働局の回答は、「今年度の『特別就労対策事業』の予算は、12億3000万円、人工数は5万1000人分です。『輪番』の仕事を増やせという要望は聞いていますが、人工数を減らさずに維持していることをご理解下さい」。「『道路清掃』を受注した企業が契約違反を行ない、途中で契約を解除したため、3日―60人分が未紹介になっています。未紹介の人工数を含めて五万一〇〇〇人分が今年度の求人数なので、三日―60人分は、今後の『輪番』に上乗せして玉姫職安で求人します」というものであった。
この回答に対して、すぐさま交渉団から「今年も5万1000人分と言っているが、何日に一回『輪番』の仕事に行けるのか知っているのか!」「玉姫職安で何人が登録しているのか、知っているのか!」「『輪番』を減らす計画があるんじゃないか!」と追及の声が上がる。団体交渉の時点で、玉姫職安には、1001番から3001番まで、2000人が登録している。1日195人の「輪番」求人では、単純計算で10日、土・日は求人がないため、2週間に1回の就労だ。しかし、産業労働局の担当は、登録数も把握していない。山谷労働者のアブレ―野宿―野垂れ死にの状況には関心もなく、ただ、「特別就労対策事業をやっている」というアリバイ作りしか考えていないことは明白だ。唯一、労働者の追及に答えたのは、「2017年度から2019年度までは5万1000人の人工数です。3年ごとの見直しの時期になる2020年度からの人工数は、総合的に判断します」というものであった。「今年も、来年も人工数は減らさない」と答えた積もりだろうが、交渉団からの「人工数の見直しは、どういう基準で、誰がやるのか!」という追及には、黙り込んでしまう。
さらに交渉団からの追及は続く。「何故、途中で求人をやめた『道路清掃』のことを、労働者には何も告知しなかったのか!」という追及には、「玉姫職安は国の機関で、自分たち東京都が『告知しろ』とは言えないので」なぞと、役所の都合だけしか考えていないことを自己暴露するだけだ。毎日毎日、「仕事は出るのか」と気にしながら早朝6時前から玉姫職安に出向く労働者の期待や不安なぞ、アリバイ作りだけに腐心する東京都には関係ないのだ。
団体交渉は終盤に入り、交渉団は、「東京都が今後発注を予定している今年度の『輪番』求人の計画について明かにせよ」と追及した。東京都のホームページの「入札情報サービス」では、10月4日に落札業者が決まる「道路清掃」の求人が、玉姫職安で紹介されるようになっているが、当の山谷労働者には、まったく告知されていないのだ。この追及に対して、産業労働局は、「10月22日から、第一建設事務所が管轄する新宿区などでの『道路清掃』の求人を玉姫職安で輪番紹介します」という回答であった。
これまで、「道路清掃」の求人は、6月~7月と、12月末~翌年2月だけであった。しかし、10月末で港湾局の求人100人分が終了すると、都立公園や都立墓苑の清掃だけの95人分へと急激に「輪番」求人が減少するため、東京・山日労は、「港湾局の求人が減る分を『道路』求人を前倒しして補え」と要求してきていた。この要求は、「何日に一回仕事が回ってくるか」という山谷労働者の死活にかかわる正当な要求だ。東京都も、これを認めざるを得なくなったのだ。
交渉団は、粘り強く要求して闘ってきた手応えをつかみ、さらに「『輪番』求人を増やせ」という要求を実現するために闘いぬくことを全員で確認し、当日の交渉を終えていった。