3・30「卒業式総括集会」
エスカレートする都教委の「不起立」つぶしを許すな
東京都立学校での卒・入学式で「日の丸」「君が代」を強制する都教委の「10・23通達」と対決する教育労働者の闘いが粘り強く闘われている。2003年の「10・23通達」発令以来の闘いは、15年に及んでいる。今年3月の卒業式をめぐっては、1月24日に、「10・23通達」を許さず闘う教育労働者を中心にして、都教委に対して「職務命令を出すな」「卒業式処分をするな」「服務事故再発防止研修をするな」「再処分を行なうな」という要請行動が取り組まれた。これに対して、都教委は、「卒業式等の式典において国歌斉唱時の起立斉唱等を教員に求めた校長の職務命令が合憲であることは、最高裁判決で繰り返し認められているところであり、職務命令違反があった場合には、個々の事案の状況に応じて厳正に対処します」という例年通りの回答を行なった。これに対しては、3月12日再度の要請行動が取り組まれた。
卒業式に対しては、都立の60校に対して「不起立」を呼びかけるビラまきが取り組まれ、60人の教育労働者や支援の労働者が1万枚のビラを配った。こうした闘いに対して、都教委は、徹底した「不起立」つぶしを強行してきた。これまで不起立決起してきた教育労働者に対して、卒業を迎える学年の担任から外したり、卒業式当日には卒業式会場に入れないような業務を命じるというやり方で「不起立」つぶしを画策してきた。今年は、さらに、今年度定年を迎え再任用を希望している教員の中で56歳から60歳の間に処分を受けた職員に対して、東京都人事部選考課長が各学校の校長宛てに「懲戒処分歴がある職員に対する事前通告」なる文書を送りつけ、当事者には、校長が口頭で伝えている。その内容は、「あなたは、卒業式における職務命令違反のため、・・・戒告の処分を受けました。このことを踏まえると、再任用職員としての資質に欠けるものがあると見受けられますが、分限免職事由に該当しないことから、今年度については合格とします。猶、今後公的年金が支給される年度への任期の更新となる際には、・・・あなたには懲戒処分歴があることから、任期を更新しないこととなります。また、非常勤教員選考においても、上記のことを踏まえ、採用しないこととなります。十分留意してください」というものだ。今年度は、2人がこの通告を受けていることが判明している。この「事前通告」は、「定年後に再任用して欲しければ、不起立をするな」という恫喝文書に他ならない。これは、直接には定年前の5年間に「不起立」を闘って戒告処分を受けた当事者に対するものだが、その狙いは、これから「不起立」を闘う教育労働者に対して、「不起立で処分されたら、再任用はないぞ」と脅し、「不起立つぶし」を狙ったものだ。都教委の「不起立つぶし」は、年を追うごとにエスカレートしている。
例年、都教委は、卒業式での「君が代」斉唱の際に不起立決起した教育労働者を都庁に呼び出し、事情聴取を強行し、3月下旬に不起立者への処分を発令してきた。3月30日の時点で「日の丸」「君が代」強制と対決して闘う「五者卒・入学式対策本部」に「不起立決起」―「処分発令」の報告は入っていない。「五者卒・入学式対策本部」は、例年開催してきた「卒業式処分発令抗議・該当者支援総決起集会」を、「卒業式総括集会」と集会名称を変更して「日の丸」「君が代」強制と対決する集会を開催した。
3月30日、午後6時から、「としま産業振興プラザ」で「五者卒・入学式対策本部」(「五者」とは「『日の丸・君が代』予防訴訟をひきつぐ会」「『日の丸・君が代』不当処分撤回を求める被処分者の会」「『日の丸・君が代』不当解雇裁判をひきつぐ会」「『日の丸・君が代』強制反対・再雇用拒否撤回を求める二次原告団」「同三次原告団」で構成されている)が呼びかけた集会には、現役の教育労働者、教職員のOB、また支援者ら六〇人近くの労働者人民が結集した。
卒・入学式での学校の裁量を認めず、管理を徹底する都教委
集会は、開会挨拶に続いて、「五者卒・入学式対策本部」の川村氏が「今年の卒業式をめぐる状況」の報告を行なった。川村氏は、自身が今年定年を迎え、1月24日に再任用での採用が決定した。しかし、翌日には校長から「悪い情報があります。来てください」と呼び出された。川村氏は、「懲戒処分歴がある職員に対する事前通告」を校長から聞かされ、定年後の5年間、再任用で働く予定であったが、63歳から公的年金の支給が始まるために、62歳までしか働けないという事実を突きつけられた。川村氏は、「それを聞いて、しばらくはぼうぜんとしました」と、ショックと怒りをあらわにした。
自身の報告に続いて、「1月の校長連絡会、副校長連絡会では、例年配布されている『教育課程の適正な実施について(卒業式、入学式等における職務命令違反による懲戒処分の考え方・年次有給休暇の申請等について)』という管理職止まりの文書が配られた」と報告した。指導部課長から「不起立等に対する懲戒においては、・・・戒告を超えて減給以上の処分を選択することが許容される」「事故があると管理職が公務の時間を取られて、本来の仕事ができなくなるため、仕事を妨害することになる」として、職員会議での発言や同僚への働きかけの状況、個別的職務命令受け取りの状況も克明に記録し報告するようにという伝達確認がなされていることを報告した。都教委の指示は徹底している。「個別的職務命令を渡し終わったという報告をセンターにすること」「あらゆる可能性を考えて、係分担の変更や個別職務命令の変更、CD・テープの準備をしておくこと」「「送辞・答辞は、管理職が事前に確認すること」「「当日の教職員の業務を明確化し、一人一人の着席時間を明示すること」「校舎内外の警備を万全にし、チラシはセンターにFAXすること」といった指示・説明も行なわれている。また、卒業式の進行表の中に生徒の不起立に対する対応が書かれていないと「司会は、起立していない生徒がいた場合『ご起立下さい』という」という文言を入れるよう、都教委は強い指導を行なっている。教育労働者への「起立」強制にとどまらず、職務命令で拘束することができない生徒への強制も強まっているのだ。
ある高校の卒業式では、卒業証書をもらった直後に、あるクラスが一斉に担任と保護者に対して「ありがとうございました」というお礼の言葉を述べたところ、若い教員が「今年の卒業式はひどかった。あんなことをするなんて。式じゃないよ」と言ったという報告が行なわれた。川村氏は、「キチキチと決められたような式でないとダメだと思う若い教員が増えている」と指摘した。
最後に、川村氏は、「私たちが闘いの手を緩めれば都教委の攻撃はますます強まります。学校の教室から戦争が始まらないように、生徒のための卒業式を取り戻すために、『10・23通達』を撤回させる取り組みを今後大きく展開していく必要があります」と締めくくった。
弁護団の澤藤弁護士は、「再任用問題」について、「川村さんの問題は、民間会社だったら労働問題になります。経営者は、労使の慣行を尊重しなければならない。一年ごとの雇用であっても、拒否すれば権利の濫用になる。しかし、公務員では話が違う。採用は、行政側の裁量とされ、『再任用』は、『新たに選考し、採用の裁量は行政にある』とされている。しかし、確定した判例にはなっていない。あらゆる要素を勘案して、『期待権の侵害』を主張したり、損害賠償を請求することはできる。今回、都教委は新たなチャレンジをしてきたということだと思う。今後、弁護団会議で検討するが、充分闘える問題だ」と訴えた。
弁護団の平松弁護士は、「新たな事態」として、3月28日付けで最高裁が「東京『君が代』訴訟第四次訴訟」(原告14人、控訴審13人、現職教員8人、2010年~2013年処分の取消・損害賠償請求)の上告を棄却したことを報告した。これによって、四次訴訟原告の現役教員である田中聡史さんは、「停職」の取り消しと、4回目と5回目の「不起立」に対する「減給」の取り消しが確定したが、「戒告処分」は容認されることになった。
「10・23通達」撤廃にむけて闘いぬくことを決意
「都教委包囲・首都圏ネット(包囲ネット)」の渡部さんが「卒業式の取り組み報告」を行なう。渡部さんは、「全体としてビラの受け取りは悪くなっている。エリート校では、ビラを受け取るなり破る生徒がいたり、教室の窓を開けて『そのビラを受け取るな』と言う生徒もいた。若い教師の受け取りが悪い。ビラまきの意義は、『外からでも『日の丸・君が代』強制に反対する声を届けよう』ということでやってきた。ひき続き、ビラまきを続ける」と発言した。
「会場からの発言」では、卒業式をめぐって、様々な報告がおこなわれた。ある学校では、「寒いのに、標準服しか着れないのでは卒業式で行なう吹奏楽の演奏がしっかりできない。カーディガンの着用を認めて欲しい」という在校生の訴えに対して、職員会議では、「すでに決まっていることだから」という意見が多く、生活指導の教員の「生徒の健康よりも規律を重視するようなことはおかしい事だと知ってください」という発言によって、吹奏楽部の生徒たちだけはカーディガンの着用が認められたが、他の生徒たちは震える中で式に臨んだという報告が行なわれ、教員の現場で判断する力量が落ちていること、現場の裁量を認めない傾向が強くなっていることが指摘された。
「東京『君が代』訴訟第四次訴訟」の原告・加藤さんは、最高裁による棄却決定を受け、予定していた4月22日の最高裁要請行動の中止を伝え、「四次は終結するが、五次訴訟を闘う」と、「10・23通達」の撤廃まで闘いぬく決意を明かにした。
都教委の「再任用打ち切り事前通告」といった新たな「不起立つぶし」を許さず闘うことを参加者全員が確認して、2時間近くにわたる集会を、終えていった。
2003年の「10・23通達」をもって都教委が卒・入学式で「日の丸」「君が代」を強制する攻撃との攻防は、16年目に入った。2006年9月には、「『日の丸・君が代』強制反対予防訴訟」が、第一審の東京地裁で、「本件通達及びこれに関する被告都教委の一連の指導等は、教育基本法10条に反し、憲法19条の思想・良心の自由に対し、公共の福祉の観点から許容された制約の範囲をこえているというべきであって、これにより、原告ら教職員が、都立学校の入学式・卒業式の式典において、国歌斉唱の際に、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する義務、ピアノ伴奏をする義務を負うものと解することはできない」という判決をかちとったが(難波判決)、2012年2月の最高裁判決で敗訴が確定している。一方、2007年度卒業式での河原井さん・根津さんの「不起立」の闘いへの処分(2007年処分)をめぐっては、都教委が河原井さんに停職3ヵ月、根津さんに停職6ヵ月の処分を発令したが、2015年5月、東京高裁が2人の処分を不当として取り消し、損害賠償も認め(須藤判決)、2016年には、最高裁が都教委の上告を棄却し、確定している。だが、同じ河原井さん・根津さんの「2008年処分」の取り消しと損害賠償を求めた裁判は、本年3月14日、東京高裁が、「河原井の停職6ヵ月は、取り消し、根津の停職6ヵ月は、『OBJECTION HINOMARU KIMIGAYO』のトレーナー着用を、『学校の規律や秩序を乱す行為をあえて選択して実行したもの』として容認、両者の損害賠償は認めない」という2017年5月の東京地裁判決を維持する判決を下し、原告2人は最高裁に上告した。
「東京『君が代』裁判」は、第一次から、本年3月28日に最高裁が上告を棄却した第四次裁判が闘われてきたが、「戒告処分」は容認し、「停職処分」は取り消し、「不起立」が4回目、5回目については「減給処分」を取り消すものになっている。
今後、裁判闘争は、「河原井・根津2008年処分」取り消しをめぐる最高裁、「河原井・根津2009年処分」取り消しをめぐる東京高裁での控訴審などが主なものになる。また、「東京『君が代』裁判」は、第五次の裁判闘争を闘うことになる。
今年、都教委が新たに「定年前5年間に『不起立』戒告処分を受けた教員は、公的年金支給開始後は再任用しない」という「63歳首切り通告」という攻撃をしかけ、「不起立潰し」を激化させる中、これを打ち破る「不起立」決起を実現し、裁判闘争に勝利することが重要になっている。「日の丸」「君が代」強制をもって、天皇と国家への忠誠を教育労働者や生徒に強制する攻撃を打ち砕く闘いに何としても勝利しよう。
〈東京・山谷日雇労働組合〉